司令車の赤い通信石

昇進祝賀の閲兵式で、カシアン大佐は妻ユーディトを来賓席から立たせた。

「私の副官メルヴァを侮辱したことを、全軍の前で謝罪しろ。遠征中の男女が同じ司令車にいただけで浮気と決めつけるとは、軍人の妻にふさわしくない」

メルヴァは新しい勲章を胸に、ユーディトを見て薄く笑った。大佐は昨夜、自宅へ戻るなり離婚状を置き、「疑った罰として財産は渡さない」と告げている。さらに今朝、メルヴァへの謝罪文を用意し、読まなければ軍人遺族年金の受給資格まで取り消すと脅した。ユーディトが壇上へ持ってきたのは、その署名を拒んだ白紙の謝罪文だけだった。

「遠征中の通信記録を開示してください」

ユーディトが求めると、カシアンは鼻で笑った。

「望むところだ。私は全通信を記録させた。部下の怠慢を逃さないためにな」

彼は自ら赤い通信石へ手を置き、司令車の記録を広場へ投影した。

最初は作戦命令だった。次に、夜半の無言通信。やがて二人の息遣いと、杯の触れる音が響く。

『奥様に知られませんか』

メルヴァの声。

『あの女には北部偵察だと言ってある。戻ったら嫉妬深い妻として離縁する。君には副官功労章をやろう』

『でも、この通信石、赤く光っています』

『録音中の印だ。私が管理者だから後で消せる』

広場の兵たちが一斉に大佐を見る。

カシアンは通信石を地面へ叩きつけた。だが記録は空中に残った。軍用通信は戦死者の最終命令を守るため、発信者本人にも消せない。しかも彼は遠征前、「例外を認めれば兵が嘘をつく」と永久保存規則へ署名していた。

続く記録では、メルヴァを昇進させるため、負傷兵の伝令功績を書き換える相談までしていた。今まさに彼女の胸で光る勲章の番号も読み上げられ、持ち主である若い兵が隊列の中から顔を上げる。ユーディトは夫を罵らず、軍属家族証を返却箱へ入れた。

最高司令官が壇上へ上がる。カシアンが敬礼を命じても、誰一人動かなかった。

司令官は黒い軍令を開いた。

「カシアン大佐および副官メルヴァに対する、軍紀違反と記録改竄による不名誉除隊命令を読み上げる」