同じ本が二冊あれば

読書発表の本が、彼と同じになった。

題名を黒板に書いた瞬間、教室が少しざわついた。彼は学年でいちばん本を読む。僕は国語の成績が下から数えたほうが早い。

「比べられるな」

後ろの席で誰かが笑った。

放課後、図書室へ行くと、目当ての小説は貸出中だった。借りたのは彼だとすぐ分かった。窓際で、もう半分以上読んでいる。

別の本へ変えようとしたら、彼が鞄から同じ表紙をもう一冊出した。

「こっち、家の本」

図書室の一冊を僕へ差し出す。

「同じ本でいいの?」

「同じ本を読んだら、同じ発表になると思う?」

その言い方が挑戦に聞こえ、僕は借りた。

翌日から、僕らは向かい合って同じ物語を読んだ。彼は付箋を何枚も貼り、僕は登場人物の名前を何度も見失った。

最初の感想を聞かれ、正直に言った。

「主人公、嫌い」

彼は目を丸くした。

「僕は好き」

同じ場面で、彼は勇気を読み、僕は身勝手さを読んだ。同じ台詞を、彼は希望だと言い、僕は諦めだと言った。

話すうち、勝ち負けのようだった読書が、少しずつ違う窓から同じ景色を見ることに変わった。

発表前日、彼がノートを見せた。整った文字で、作者の経歴や時代背景がまとめてある。

僕のノートには、人物の顔の落書きと、腹が立ったページの番号しかない。

「やっぱり、僕の発表ひどいな」

「僕には、その顔は描けない」

「発表で絵は採点されない」

「でも、君がどこで怒ったかは分かる」

彼は僕のノートの一枚を指した。

本番、彼は作品の構造を説明した。僕は主人公が嫌いな理由を話した。教室は予想以上に静かに聞いた。

最後に先生が聞いた。

「同じ本を選んで、困らなかった?」

彼は答えた。

「二冊あって助かりました」

僕は首を振った。

「一冊でもよかったです。読み終わる時間が違うだけだから」

教室の後ろで、以前笑った誰かが「なるほど」と言った。

発表後、僕らは二冊を机に並べた。図書室の本は角が丸く、彼の本は帯まできれいだった。中身は同じなのに、開いた跡が違う。

「次も同じ本にする?」

僕が聞くと、彼は少し考えた。

「別の本を読んで、同じ話をしよう」

僕らは別々の棚へ向かった。

同じであることより、違ったまま話せることのほうが、ずっと面白いと知った午後だった。