同意しない適性検査
《規約を確認し、「同意する」を押してください》
中央情報学院の入学適性検査。透明端末に同じ文面が浮かび、画面右下では青いボタンが脈打っている。
凌空は前の人生で、迷わず同意した。直後、端末は彼の脳波履歴を丸ごと吸い上げ、「不正アクセス傾向あり」と判定。奨学資格を失った。五年後、地下市場で自分の思考パターンが防衛AIへの侵入鍵として売られているのを見つけ、ようやく試験自体がデータ収集詐欺だったと知った。
戻ってきたのは、青いボタンへ指が触れる一秒前。
《同意しなければ、試験を開始できません》
前と同じ警告。
前の凌空は「仕方ない」と押した。
今度は指を引いた。
「同意しない」
監督官がガラス越しに声を上げる。
「棄権として処理するぞ」
「処理できません。規約第三十二条に、未成年の全脳波データ取得には保護者署名が必要とあります。署名欄が空です」
未来で盗まれた規約を一字ずつ覚えた。凌空は画面を二本指で縮小し、最下部の灰色文字を拡大する。
「さらに送信先が学院サーバーではなく、民間企業ノード《オルカ》になっている」
監督官の顔が固まった。
《同意する》
ボタンが急に大きくなり、画面中央へ移動する。拒否させないための誘導だ。
凌空は端末横の赤い物理鍵を抜いた。前回は飾りだと思った非常遮断キー。差込口へ逆向きに挿す。
「試験を開始する。端末ではなく、試験システムそのものを診断対象にして」
暗転。
一秒後、教室中の端末に同じログが展開した。
【外部送信要求:三百十二件】
【送信元権限:監督官】
【売却予定時刻:本日十二時】
まだ被害が確定する前だ。凌空は初めて、未来の犯罪を過去の証拠として捕まえた。
学院長の緊急回線が開き、警備ドローンがガラス扉を封鎖する。前の人生では凌空だけに届いた不正判定が、今回は監督官の端末へ赤く表示された。
【資格停止/調査対象】
凌空の画面には、青ではなく金のボタンが一つ現れる。
《管理者試験を開始しますか》
その下に、未来では存在しなかった文字が続いた。
《受験番号0417 特待合格》