名前の長い盾
炎の雨が降る中、柾木ツバキは倉庫の最下段から派手な看板を装備した。
《文字盾》
アイテム正式名称の文字数と同じ秒数だけ、装備者の周囲へ障壁を展開します。
《夏季限定・初心者歓迎・海辺の町スタンプラリー参加記念装飾看板》
防御力:0
「盾じゃないだろ、それ!」
仲間が叫ぶ。最強盾《神壁》の障壁は二秒で消えた。正式名称が二文字だからだ。
ツバキの看板名は三十二文字以上ある。
巨大な透明壁が展開し、炎の雨を受け止める。残り時間《33》が表示された。
避難門が開くまで三十秒。最強装備を持つ盾役たちは、二秒ごとに障壁を張り直し、魔力を使い果たしていた。
ツバキは看板を両手で支える。防御力ゼロなので、障壁が消えた瞬間に死ぬ。
敵将は看板を見て笑う。
「そんな長い名、途中で略称へ変わる」
正式名称はイベント終了後も変更されない。プレイヤーが呼ぶ略称《夏看板》は四文字だが、システムは説明欄の正式表記を数える。
二十秒。
看板には、海辺の町で初心者たちと撮った記念画像が貼られている。攻略隊は邪魔だと笑い、誰も持ち帰らなかった。
十秒。
炎で画像の端が焦げる。障壁の外側にいるNPCが一人、門へ間に合わない。
ツバキは前へ走り、障壁ごとその人を包む。残り三秒。
二、一、ゼロ。
避難門が閉じる寸前、全員が中へ転がり込んだ。看板は燃えて消えたが、正式名称だけが攻略履歴へ残る。
《文字盾持続時間:三十三秒》
《避難完了:全員》
後日、攻略隊は看板の正式名称を短く変更しようとした。表示欄へ収まりにくく、戦闘ログが読みにくいからだ。
ツバキは拒否する。
長い名には、開催年、海辺の町、初心者歓迎という、当時そこにいた人々の記録が含まれている。削れば障壁時間だけでなく、誰と作った物かも短くなる。
燃えた看板は戻らなかったが、同じ正式名称の複製品が避難所へ飾られた。防御力ゼロのまま、読む者の時間だけを三十三秒使う記念碑になった。
《最高防御装備を更新――短い英雄名ではなく、誰も略さず残した思い出の長さが障壁になりました》