名義だけの交換

漆原綺里は、十二のカードを手から離さないまま、交換端末で本郷廉の三と名義を入れ替えた。

画面にはこう出る。

〈カード12 登録所有者:本郷廉〉

〈カード3 登録所有者:漆原綺里〉

諏訪部巴が首を傾げた。

「十二を渡さないの?」

「端末では交換が終わった」

壁の規則は一つだった。

〈全員が端末でカードを一度交換した後、終了時に最大数字のカードを手にしている者を解放する〉

主催者は、端末で名義を交換した後、互いに実物を手渡すものと考えていた。画面にも「新しい所有カードを受け取ってください」と案内が出る。しかし案内は規則ではない。しかも表示は命令形ではなく、薄い灰色の推奨文だった。

廉は手を伸ばす。

「それは今、俺のカードだ」

「所有者はあなた。でも手にしているのは私」

『交換処理には現物の移転が含まれます』

「なら端末が現物を動かせばいい。これは名義しか入れ替えていない」

残り三分。巴は八を持ち、廉との交換で三の名義を得た。彼女も実物の八を渡さず、綺里の真似をする。廉だけが新しい所有権にこだわり、綺里から十二を奪おうとした。

座席の拘束帯が彼の腕を止める。カードは各自の手の生体センサーで読まれており、強奪すれば暴力警告が出る。

終了十秒前、主催者はカードの登録情報を大きく表示した。

十二の所有者は廉。八の所有者も交換の結果、別人になっている。だが規則の後半は「所有する者」ではなく、「手にしている者」だった。

ベルが鳴る。

〈手持ち数字、漆原綺里・十二。本郷廉・三。諏訪部巴・八〉

〈勝者、漆原綺里〉

廉が端末を叩く。

「交換した意味がないじゃないか!」

「名義は交換した。勝敗に意味がなかっただけ」

綺里の首輪が外れる。彼女は十二を端末の上へ置いたが、廉には渡さなかった。

「主催者は、所有権を替えれば人は物まで従って動かすと思った。でも規則が見ていたのは、最後にどの手が何を持っているか」

開いた扉へ進む綺里の背後で、十二の所有者名だけが廉のまま点滅していた。