四人席の空席神
母の一周忌に、三人きょうだいは家族レストランへ集まった。
本当は四人きょうだいだが、末の兄は来なかった。
相続の話で揉め、
「もう家族の集まりには呼ぶな」
と言って町を出た。
案内されたのは四人席だった。
三人が座ると、空いた椅子の上に、茶碗ほどの小さな神様が現れた。
白い前掛けをし、箸を一本だけ持っている。
「名前を呼ばれた空席の料理しか、わしは食べられん」
三人は困った。
末の兄の名前を口にするのを、半年避けてきたからだ。
「あの人の分はいらない」
姉が言う。
神様は空の皿を見つめ、腹を鳴らした。
注文した料理が来た。
母の好きだった定食を三つ。
店員が間違えて、子ども用の小さなハンバーグも一皿置いた。
「これは頼んでません」
返そうとすると、神様が箸を持ち上げた。
「昔、空席の者が好きだった物ではないか」
末の兄は子どもの頃、この店で毎回同じハンバーグを頼んだ。
人参を残し、母に叱られ、姉の皿へこっそり移した。
「だから何」
姉が言う。
「思い出したからって、許すわけじゃない」
神様はうなずいた。
「許さずとも、名は呼べる」
弟が最初に名前を口にした。
ハンバーグから湯気が一筋、神様の口へ入った。
次に姉が呼び、
「母さんの介護を途中で投げた」
と責めた。
神様はもう一口食べた。
もう一人の弟は、
「でも病院代を一番出した」
と付け足した。
姉は、
「だから黙って消えていいわけじゃない」
と返した。
三人は、名前を呼ぶたび、腹の立ったことと助かったことを一つずつ話した。
空席をきれいな思い出で埋めるのではない。
いない人を、悪者の呼び名だけにしないためだった。
神様が最後の一口を食べると、店の扉が開いた。
末の兄が立っていた。
「呼ばれた気がした、とは言わない」
兄は不機嫌に言った。
母の遺品から、この店の割引券が出てきたので来ただけらしい。
姉は席を立たなかった。
「座る?」
「話し合いなら帰る」
「ハンバーグが余ってる」
兄は空席を見た。
神様はもう消えている。
椅子へ座り、人参を姉の皿へ移した。
相続の話はまとまらなかった。
途中でまた声を荒らげた。
それでも、誰かを指すとき「あの人」とは言わなくなった。
四人席は、許した人の席ではない。
名前を消さずに、意見の違うまま同じ皿を囲める人のための席だった。