四時の朝刊
朝刊が刷り上がる四時、輪転機の脇で編集者が倒れた。
印刷工場の時計は四時三分。巨大な機械は止まり、床には刷りたての新聞が扇のように散っていた。編集者の手には、記事を差し替えるための赤い校正紙が握られていた。
工場長は、午前四時の最終版確認中に異変が起きたと証言した。作業員たちは眠そうに目をこすり、休憩室には空の弁当箱が積まれていた。窓のない工場では外の明るさは分からないが、西側の壁だけが妙に温かかった。
編集者は前日、建設会社の不正を翌朝刊で報じると宣言していた。建設会社の広報担当には午前二時から五時まで自宅にいた記録があり、玄関カメラにも出入りはない。工場へ入れたのは新聞社の者だけだった。
若い校閲係が疑われた。編集者と記事をめぐって口論し、四時前に輪転機の近くを歩く姿が映っている。彼は「夕方の早版を確認しただけだ」と言ったが、朝刊を夕方に刷るという説明は刑事には言い逃れに聞こえた。
編集者の赤い校正紙には、広報担当しか知らないはずの修正要求が書き込まれていた。建設会社は電子メールで送ったと主張したが、受信履歴はない。誰かが紙面を止めるため、直接工場まで運んだ可能性が高かった。
散らばった紙面には、天気予報と番組欄だけが印刷され、主要記事の欄は白かった。休憩室の弁当箱には昼食業者の回収印が押されていた。機械脇の壁に触れると、西側の外壁から伝わる熱がまだ残っていた。
工場長が「四時」としか言わなかったことに、刑事は気づいた。朝刊の地域別ページや折り込み分は、前日の午後から順に刷り始める。最終記事が入る前の早版なら、午後四時でもおかしくない。
時計の四時三分は午前ではなく午後。作業員が眠そうだったのは徹夜明けではなく、昼休憩後の単調な作業のせいだった。
広報担当の自宅記録は深夜のもの。午後三時五十二分には、来客用カードで工場へ入っていた。
刑事は白い記事欄へ赤い校正紙を重ねた。そこには、建設会社の名が大きく印刷されていた。
四時の朝刊は朝に生まれたのではない。翌朝まで秘密を守れない者が、夕方のうちに止めに来た紙面だった。