四月五日の罠
奏太が通商院へ呼ばれた朝、港には羊毛を積んだ船が四十隻も停泊していた。
契約書には、荷揚げ期限が『4/5』とだけ記されている。
王国では四月五日。相手国では五月四日。たった一本の斜線が、二つの暦順を隠していた。王国側はまだ二十九日あると思い、相手国の監査官は「期限を一日過ぎた」と金貨五万枚の違約金を請求した。両国の翻訳官は、数字は世界共通だから訳す必要がないと言い張る。だが船には一日ごとに金貨四百枚の停泊料がかかり、議論を続けるだけでも国庫が削られていく。
「この印を押せば、国庫が空になる」
通商卿の前で、羽根ペンが震えていた。
前世で輸出書類を扱っていた奏太は、契約書の余白に数字を横一列で書いた。
『王暦812年05月04日』
年、月、日。大きい単位から並べ、月も二桁にする。その下へ相手国語で『五月四日』と添えた。彼は同じ契約の発注書、積荷証、船長日誌を集めた。数字表記を変えただけで意味を足していないことを示すため、三人の書記に同じ日付を声に出させる。全員が『五月四日』と答えた。
発注書には『春祭りの二十九日後』。
船長日誌には『五月四日到着予定』。
相手国側の原本にも、綴り文字で『第四月の五日』ではなく『五月の四日』とある。
略された数字だけが、二つの読み方を持っていた。
奏太は相手国の監査官へ、新しい表記で確認書を書かせた。監査官は最初ためらったが、原本との一致を認めて署名する。違約金の請求書はその場で破棄された。さらに停泊料は相手側の早すぎる監査が原因として、半額返還される。
港の鐘が鳴り、四十隻の荷揚げが始まる。
一時間で羊毛千二百梱が倉庫へ入り、市場価格は暴騰寸前の一梱銀貨九枚から六枚へ戻った。商人たちの怒号が、安堵の笑いへ変わる。冬服を待つ仕立屋たちは、閉じていた注文台をその場で開いた。
主席翻訳官は「数字にまで言葉を足すのは冗長だ」と漏らした。
通商卿は違約金の金額、五万枚を指で二度叩いた。
「冗長な十字で、五万枚が残った」
彼は全契約の書式を『年・月・日』へ改める命令書を出し、奏太へ日付印を渡した。
「国際契約の暦監訳官として採用する。今後、数字ほど丁寧に訳せ」