壁の中の騎士
発売候補版の通しプレイで、騎士団長が壁の中から演説を始めた。
声だけは勇ましい。石壁から兜の先が出たり消えたりし、最後には剣だけが廊下へ滑ってくる。翌朝の社内審査までに直すよう、戦闘担当の水無瀬戸玄理へ依頼が回った。
団長は戦闘後、指定地点へスポーンし、王の間まで歩く。床にはナビメッシュがあり、通常なら壁の内側を選ばない。玄理が記録を見ると、団長の出現位置は正しかった。ただし戦闘中に倒れた柱が、終了後も見えないまま残っている。
「柱を消せばいいですね」
若手が削除しようとした。玄理は止め、戦闘をやり直した。柱は敵の突進を防ぐ遮蔽物でもある。最初から消せば難易度が変わる。
戦闘終了時、柱の見た目だけが片づき、当たり判定が残っていた。団長は柱を避けようとして壁際へ押され、出現直後の一歩で壁の中へ入る。壁に入った後は、最短経路としてそのまま王の間へ向かっていた。
終了時に当たり判定も消す修正が入った。団長は廊下へ出た。しかし玄理は、柱を倒さずに敵を倒す手順も試した。今度は立っている柱まで消え、演説中の背景が不自然に空いた。
「倒れた柱だけ消す印が必要です」
玄理は柱が倒れた瞬間に印を付け、その印があるものだけ戦闘後に片づけるよう頼んだ。さらに団長の最初の一歩を、壁と反対側へ固定した。片づけ処理が遅れても、壁へ押し込まれないための保険だった。
玄理は主人公を団長の正面へ立たせ、進路を塞いだ。団長は壁へ逃げず、半歩下がってから廊下の中央を選び直した。
午前三時、団長は廊下の中央へ現れ、倒れた柱をまたいで王の間へ進んだ。柱が残る場合も、壊れる場合も、演説は人前で行われた。
審査担当が笑いながら言う。
「壁の中のほうが、神秘的ではありましたね」
玄理は修正記録に、柱の状態と団長の一歩目を記した。神秘で済むのは、見つけた側だけだ。
朝の審査が始まる直前、新しい映像が届いた。今度は王が玉座の下から拍手している。
玄理は騎士団長を見送り、王を床上へ戻す作業票を開いた。