奪われた名前を名札に戻す
王立学院の名札係ペルラは、卒業式の壇上へ上がる資格すらなかった。
彼女の仕事は制服の裏へ名前を縫うだけ。首席魔術師たちは、ペルラが一文字でも曲げるたび「無能の印」と笑い、式典用の衣装を投げつけた。
成人時に得た技能も、役所向きの雑用と見なされていた。
【固有スキル《名札付け》:衣服に名を縫いつけ、誰の所有物かを識別できる状態にする】
卒業証書が授与される直前、講堂の扉が内側から閉じた。
天井の紋章から黒い霧が降り、壇上の学院長が自分の名を言えなくなる。続いて生徒たちの胸から文字が抜け、霧へ吸われた。
現れたのは《無名喰らい》。名を奪われた者は、家族の記憶からも戸籍からも消え、最後には身体まで透明になる。
首席たちは大魔法を放つが、怪物には名がないため照準を定められない。
彼らは逃げ道を求めてペルラを押しのけ、真っ先に結界扉へ群がった。名札係だった彼女のことなど、もう誰も思い出せなくなりかけている。
床には、制服から抜け落ちた名札が散っていた。
ペルラは一枚ずつ拾う。名札は服の所有者を示すもの。だが服だけが、その人の所有物なのだろうか。影も、声も、思い出も、本人が生きてきた証として所有している。
彼女は全員の名札を一本の長い糸へ通し、黒い霧の中へ針を投げた。
針は奪われた名前を貫き、それぞれの持ち主の影へ縫い戻していく。
学院長の姿が濃くなり、生徒の母親が客席で我が子を呼ぶ。
最後に余った白い名札を、怪物の胸へ縫いつけた。そこへペルラが書いたのは《盗品入れ》の四文字だ。
所有者を示された霧は、抱え込んだすべてを返さなければならない。
名前が奔流となって人々へ戻り、空になった怪物は小さな布袋へ縮んだ。
ペルラを笑っていた首席の一人が、自分の名を取り戻すなり手柄を語ろうとする。だが卒業証書の受取人欄には、彼が真っ先に逃げた記録まで新しい名札のように浮かんでいた。
ペルラは自分の制服へ、初めて金糸で名を縫う。
【職業《学院名札係》が上位職《真名縫留師》へ書き換わりました】