婚活プロフィールの空欄
立花郁実の婚活プロフィールで、趣味の欄だけが空白だった。
料理は作れるが、趣味ではない。旅行は好きだが、年に一度行くかどうか。毎週欠かさずしているのは、ゲーム配信だった。
〈イクミン教授〉という名で、難解な推理ゲームをホワイトボードまで使って考察する。顔は映さない。それでも、結婚相談所の相手に知られれば「いい年をして」「知らない人に喋るなんて」と思われそうで、担当者には「特にありません」と答えていた。
三人目の相手との面談で、空欄が問題になった。
「休日は何をされているんですか」
穏やかな男性に聞かれ、郁実は「家でのんびり」と答えた。
「ゲームとか?」
「ほとんどしません」
その瞬間、鞄の中でスマートフォンが鳴った。
《教授、今夜の考察資料を共有しました》
配信スタッフからの通知だった。男性にも文字が見えたらしい。
「教授?」
「仕事のグループです」
嘘を重ねた郁実は、その後の会話をほとんど覚えていない。
面談終了後、担当の生方が冷めた茶を入れ替えた。
「ゲーム配信をされているんですね」
「どうして」
「先ほどの通知と、以前鞄から落ちた虫眼鏡の缶バッジ。息子が同じものを持っています」
郁実は身構えた。
「プロフィールには書かないほうがいいですよね」
「それは私が決めることではありません。ただ、今の方と交際になっても、毎週嘘をつき続けることになります」
「正直に書いたら、申し込みが減りそうで」
「減るでしょうね」
生方はあっさり言った。
「でも、隠した郁実さんに来る申し込みと、本当の郁実さんに来る申し込みは、同じ数として比べられません」
帰宅して、郁実はプロフィール編集画面を開いた。
〈趣味:ゲーム〉と入力して止まる。これなら無難だ。けれど、それではまた「ほとんどしません」と言える余地を残すことになる。
全部消し、書き直した。
〈週末に推理ゲームの配信をしています。考察のために本気で悩む時間が好きです〉
公開ボタンを押すと、申し込み件数が二件減った。胸が少し痛んだ。その一方で、翌朝には新しいメッセージが届いた。
〈配信は見たことがありませんが、推理ゲームなら一緒に考えてみたいです〉
郁実はすぐ返事をせず、まず今夜の配信資料を開いた。
プロフィールの空欄は、もうなかった。