宝石箱は十一回持ち上がる

飛脚商会は、宝石箱を運ぶほど赤字になっていた。

一箱の運賃は銀貨十枚。普通の木箱は三枚。高価な荷のほうが儲かるはずなのに、月末の金庫は空になる。商会主は平民向け便を値上げしようとした。

「値段を上げる相手が逆です」

宝石便のたび、飛脚は二人一組で夜通し番をし、破損がなくても鑑定人へ手数料を払っていた。だが商会主は、それらをすべて普通便の費用へ混ぜていた。農家が送る種袋の運賃が上がり、高価な宝石ほど安く運ばれる。平民の客が減るほど赤字が増える仕組みだった。

久礼は一週間、荷物の後ろを歩き、触れられるたび小石を袋へ入れた。普通箱の袋には二個。宝石箱には十一個。護衛の砂時計も六度ひっくり返った。会議の日、二つの袋を机へ落とすと、石の音だけで作業量の差が伝わる。豪華な箱に見えない手間が群がっていたことを、誰も否定できなかった。

久礼は、前世で物流費の配賦をしていた。荷物の重さではなく、作業を一つずつ壁へ刻んだ。

普通箱は受付と積込み、二回。護衛なし。

宝石箱は鑑定、封印、二人確認、地下保管、夜間見張り、専用馬車への積替え。到着後も再鑑定と受領立会い。持ち上げる回数は十一回、護衛は六時間。

ひと月の人件費と護衛費を、その回数と時間で割り直す。

普通箱の本当の費用は銀貨二枚。三枚で一枚の利益。

宝石箱の費用は十二枚。十枚で二枚の赤字。

百箱運べば、豪華な客だけで銀貨二百枚を失う。

商会主が青ざめたところへ、公爵家の執事が宝石百箱の依頼に来た。従来価格を要求し、断れば商会を潰すと脅す。

久礼は新しい料金表を置いた。基本運賃四枚。鑑定二枚。封印一枚。夜間保管二枚。護衛六枚。合計十五枚。

執事は怒鳴りかけたが、他社は十八枚だった。内訳が明確な十五枚を見て、黙って百箱の契約へ署名する。

利益は一箱三枚、合計三百枚。

商会主は平民便の値上げ札を破り、久礼の料金表を正面へ掲げた。

「今日から全便の値段を、お前が決めろ。業務会計長に任命する」