実況席が黙った日

「さあ決勝! 無敗の破城王ブロザン対、職業〈壁役〉の新人カエディ!」

王都闘技場の実況は、最初から勝敗を決めていた。

ブロザンは十二の砦を攻略した英雄。対するカエディは攻撃技能なし、武器なし、入場時につまずいて観客を笑わせた少女だ。

決勝種目は〈崩城耐久〉。選手の頭上へ模擬城壁を倒し、耐えた者が勝つ。

「棄権するなら今だぞ」

ブロザンが巨大斧を肩へ担ぐ。

カエディは両手を腰の後ろで組み、開始線に立った。

「賞金で実家の屋根を直したいので、嫌です」

鐘が鳴った。

ブロザンは規定の留め具だけでなく、斧で壁脚まで叩き切った。模擬とはいえ、実城と同じ花崗岩が千個。城壁は一枚の山となってカエディへ倒れ、闘技場を土煙で満たした。

実況者は「決着!」と叫びかけ、妙なものを見た。

開始線の旗が、煙の中で立ったままだった。あの旗はカエディの足元にある。城壁が押し流したなら消えるはずだ。

煙が晴れる。

カエディは同じ姿勢で立っていた。両手を背後で組み、つま先を開始線へ揃えている。旗も無傷。石材は彼女の周囲だけ菓子のように割れていた。

実況水晶は直前の映像を低速で再生した。石は確かにカエディの肩、頭、背へ次々に命中している。それなのに彼女は瞬き一つせず、石のほうが触れた順に崩れていた。賭け率表示が一斉に反転し、英雄へ全財産を賭けた貴族たちの顔から色が消えた。

観客が静まり返る。

「小細工だ!」

ブロザンは決勝用の巨大斧〈国崩し〉へ魔力を流した。壁を倒す競技で、選手へ直接攻撃するのは禁止だ。だが審判は英雄の反則を止めなかった。

斧が赤熱し、カエディの頭頂へ落ちる。衝撃で残った石が跳ね、煙が円形に広がった。

彼女は両手を後ろで組んだまま、少し首を傾げた。

「これも耐久種目ですか?」

実況席は答えられない。

ブロザンは斧を引こうとした。刃は彼女の髪に触れた位置で止まり、動かない。次の瞬間、英雄の名を十二の砦へ刻んだ〈国崩し〉は、中心から真二つに砕けた。