家族保証人
板屋篤生は昼食を買うたび、代金の不足分を寿命ローンへ回す。今日は唐揚げ弁当で十一分。給料日に現金で返せば、寿命は減らない。小さな借入は、誰でもそうしていた。
弟の斐人が死んだ日の夜、篤生の家族口座に大きな通知が届いた。
《借入人の死亡を確認しました》
《未返済寿命:六年四か月》
《家族保証を執行します》
斐人が店を始めるため、寿命を担保に金を借りていたことは知っている。だが保証人を立てたとは聞いていなかった。
寿命ローンでは、借入人が死亡した場合、最年長の一親等から自動回収する。それが唯一の規則だった。
回収先は母だった。
《板屋家・最年長一親等》
《残り寿命:四年十一か月》
「足りないだろ」
篤生が停止を押す。
《不足分は次順位へ移行します》
母から四年十一か月。残り一年五か月が、篤生へ来る。
それなら自分が全部払うと入力した。
《回収順位は変更できません》
母の部屋へ走る。彼女は斐人の遺影用写真を探していた。まだ死亡通知から二時間しか経っていない。
「母さん、端末見た?」
「老眼鏡、どこだっけ」
篤生が画面を隠そうとした瞬間、回収が始まった。
母の残量が、四年から三年へ落ちる。
「何これ」
「斐人の借金」
「じゃあ、私が払うよ」
「そういう意味じゃない」
二年。
一年。
母は写真の中の斐人を見た。開店日に撮った一枚で、慣れないスーツ姿だった。
「この店、うまくいかなかったの?」
篤生は、斐人が事故で死んだだけだと言えなかった。店は軌道に乗っていた。借金も来月から返せる予定だった。
三十日。
一日。
母の手から写真が落ちる。
《第一順位から四年十一か月を回収しました》
心臓が止まった。
続けて篤生の手首が光る。
《第二順位から一年五か月を回収します》
残量が減り始める。
篤生は母と弟、二人分の救急を呼んだ。音声は「死亡者への出動は有料です」と答え、寿命二十分の決済を求めた。
彼は承認した。
十一分の弁当代と、二十分の救急代。
どちらも給料日に返せるはずだった。
家族保証で失われた六年四か月だけは、返済完了として二度と戻らなかった。