小銭入れの鈴

祖父の公成は、買い物へ行くとき鈴のついた小銭入れを持つ。

黒い革袋に、小さな金色の鈴。歩くたびちりんと鳴る。

孫の真砂は、その音が恥ずかしかった。中学生になり、祖父と商店街を歩くところを友達に見られたくない。

日曜、母に頼まれて二人で味噌を買いに行った。真砂は半歩離れて歩く。

八百屋で大根、豆腐店で油揚げ。公成は会計のたび小銭を一枚ずつ数える。後ろの客を待たせるのが気になり、真砂が代わりに払った。

「急がなくていい」

「みんな待ってるから」

祖父は何も言わず、小銭入れを閉じた。

帰り道、真砂は店に手袋を忘れたことに気づいた。一人で走って戻る。

人混みの中、祖父を見失った。携帯電話も家へ置いてきた。

立ち止まると、少し先からちりん、と聞こえた。

公成は漬物屋の前で待っていた。鈴をわざと鳴らしていたらしい。

「子どもの頃、お前が迷子になるからつけたんだ」

真砂は初めて理由を知った。

帰宅後、二人で味噌汁を作った。大根を煮て、油揚げを入れる。公成は小銭入れを食卓へ置いた。

それから真砂は、祖父の隣を歩くようになった。会計では急かさず、鈴の音を聞く。

夕飯の味噌汁から湯気が上がるたび、小銭入れの革と大根の甘い匂いが、迷わず帰れた商店街を思い出させた。

公成は真砂の鞄にも小さな鈴をつけようとした。もちろん断られたが、内ポケットへ入れる予備の鈴だけ受け取った。音が鳴らないよう布で包んである。修学旅行の人混みで友人とはぐれたとき、真砂は包みを開き、一度だけ振った。高い音に皆が振り返り、すぐ見つかった。帰宅後、その話をすると公成は得意そうに味噌汁をすすった。食卓の端の二つの鈴は、動かさなければ静かで、大根の湯気が触れたときだけ金色に曇った。

真砂は予備の鈴を新しい鞄へ移した。布に包んだままなので普段は鳴らない。祖父と歩く日だけ外へ出し、二つの音を少しずらして商店街へ響かせた。