山羊の紙袋と焼き芋

 早坂周平の祖母、梅乃は、曲がったさつま芋ばかり焼いた。

 新聞紙に包み、濡らしてからストーブの上へ置く。焼けた芋には塩を混ぜたバターをのせた。子どもの周平は、店で売れない芋を食べさせられていると思い、友だちの前で「うちは貧乏くさい」と言ったことがある。

 祖母は怒らず、「曲がった方が火に近いところが増える」と笑った。その笑い方が、亡くなったあとまで周平を責めた。

 農園の倉庫を整理していると、飼い山羊のしろたが古い紙袋を引っぱり出した。中には小さな芋と、祖母の字で書かれた出荷メモがあった。

〈大きいのは売る。周平の運動靴代。曲がりは蜜がたまるから家用〉

 売れ残りではなかった。祖母は甘いものを選び、まっすぐなものを金に替えていた。

 周平は倉庫の薪ストーブへ火を入れた。

 新聞紙を濡らし、芋を包む。待ちきれず何度も転がすと、皮だけ剥がれた。二本目は手を出さず、しろたが干し草を噛む音を聞きながら待った。

 やがて新聞紙の隙間から、焦げた蜜の匂いが立った。割ると、黄色い中身が湯気を上げ、皮の内側に透明な蜜が光っている。

 塩を混ぜたバターを落とす。白い塊はすぐ溶け、筋になって染み込んだ。

 口に入れると、甘さのあとから塩気が来た。祖母の味より少し焦げている。それでも、あの日笑われたのは祖母ではなく、自分の狭さだったと、ようやく認められた。

「ばあちゃん、うちは貧乏くさくなかったよ」

 周平は写真の代わりに、空いた椅子へ言った。

 しろたが紙袋を齧ろうとするので、周平は慌てて取り上げた。

「これは食べちゃ駄目だ。大事なレシートだから」

 外では霜が白く降りていた。倉庫の中には焼けた皮とバターの香りが残り、曲がった芋を包む掌だけが、夕方まで熱かった。

 翌週、周平は近所の子どもたちを呼び、形の悪い芋を選ばせた。しろたは一番曲がった一本を狙い、柵から首を伸ばす。周平は笑って遠ざけながら、「これは甘いから人間の分」と、かつて祖母が言いそうな口調で教えた。