巨人娘のつぶれないシュークリーム
菓子店〈豆粒屋〉の扉から、巨大な指が一本だけ入ってきた。
「店主さん、相談があるんだ」
外にしゃがんでいたのは巨人族のゴラナだった。力加減が苦手で、木の椅子も陶器の皿も握れば壊す。明日は弟の誕生日。菓子を持ち帰りたいのに、これまで買ったケーキは箱ごとつぶれ、最後には店から断られたという。
昨日買った菓子の箱も持ってきていた。蓋を開けると、クリームと紙が一枚の板のように固まっている。弟はそれでも食べると言ったらしい。その優しさが嬉しくて、同時に悔しかった。ゴラナは箱を隠すように背へ回し、大きな指先を店の敷居から離した。
「味より先に形がなくなる。あたしの手じゃ、贈り物なんて無理なのかな」
店主アニスは返事の代わりに、人の頭ほどあるシュークリームを一つ運び出した。岩のような見た目ではなく、薄い皮に雪色のクリームが詰まった、ごく普通の菓子だ。
「抱きしめシューです。優しく持つほど柔らかく、強く持つほど皮が丈夫になります」
「そんな都合のいい菓子があるかい」
ゴラナは親指と人差し指で恐る恐るつまんだ。力が入りすぎ、指先の石畳が割れる。だがシューはぺしゃんこにならず、むしろ皮に金色の筋が走って丸みを保った。
彼女は少しずつ力を強めた。木箱なら粉になるほど握っても、菓子はふわふわのままだった。
「本当に、つぶれない」
「壊さないように震える手より、安心して持つ手のほうが似合います」
ゴラナは両掌でシューを包んだ。大きな顔に、子どものような笑みが広がる。
味見用の小片をアニスが渡すと、彼女は舌先へ載せた。香ばしい皮と、山羊乳の濃い甘さ。
「これなら、箱じゃなくて自分の手で渡せる」
代金は銀貨五枚だった。ゴラナは爪ほどもある巨人銀貨を一枚、店先へそっと置いた。石畳は割れなかった。
「釣りで同じものを十一個。明日の夕方、あたしの手で取りに来るよ」
シューを宝物のように抱え、足音を抑えて帰っていく。
アニスが巨人銀貨の上へ腰掛けて息をついたとき、ちりん、と小さなドアベルが鳴った。