席替え実況中継
放送委員の彼は、席替えをスポーツ中継のように実況した。
「さあ一番手、教卓前を引きました。表情が死んでいます」
先生に「静かに」と言われても、声量を落とすだけでやめない。
「続いて窓際後方、大当たり。観客席から羨望の声」
僕は笑いながらくじを引いた。番号は十二番。好きな人の隣だった。
心臓が跳ねた。その瞬間、実況が耳元へ来た。
「ここで十二番、まさかの好位置。本人、平静を装っていますが耳が赤い」
「黙れ」
小声で言ったのに、彼はにやりとした。
新しい席へ移ると、好きな人が先に座っていた。
「実況、当たってる?」
「何が」
「好位置」
僕は椅子を引く音でごまかした。
授業が始まっても、頭の中で実況が続いた。教科書を忘れた彼女と一冊を共有する。肩が近い。僕、ページをめくるタイミングを誤る。彼女、笑う。ここで選手、致命的な動揺。
昼休み、放送委員がマイクの真似をして近づいてきた。
「現在の心境を」
「最悪」
「本当に?」
僕が追い払おうとすると、彼女が代わりに答えた。
「私は楽しいです」
実況役が大げさに目を見開いた。
「ここで隣席から高評価。試合は新展開を迎えました」
教室中に聞こえる声ではなかった。それでも僕には十分大きかった。
放課後、彼女と二人で日直の仕事をした。黒板を消し、窓を閉める。話題が尽きると、沈黙が実況よりうるさく感じた。
「十二番、何か言わないの?」
彼女が笑った。
「実況ないと無理」
「じゃあ私がやる」
彼女はチョークをマイクのように持った。
「十二番選手、放課後の教室で告白する絶好機です」
「展開が急すぎる」
「選手、逃げ腰です」
「相手の気持ちが分からないので」
彼女は少し黙り、チョークを置いた。
「隣席、待っています」
僕は笑うしかなかった。格好いい言葉は出なかった。
「次の席替えまで、隣にいてください」
「期間限定?」
「延長ありで」
彼女はうなずいた。
翌朝、放送委員に報告すると、彼は机を叩いた。
「十二番、逆転勝利!」
先生に廊下へ出された。
僕ら三人が笑っている間も、席替えの試合は続いていた。たぶん勝敗ではなく、声に出した人から次の場面へ進める競技だった。