役に立たない葉

二十五歳の香坂椿は、役に立つことだけを休日に置いた。午前は資格の勉強、午後は買い出し、夜は翌週の作り置き。散歩をするなら歩数を測り、映画を見るなら仕事の参考になる作品を選ぶ。何も残らない時間を過ごすと、誰かに先を越されたようで落ち着かなかった。友人に水彩画へ誘われたときも、『仕事に使わないから』と断った。友人は笑って『使わないから描くんだよ』と言ったが、その言葉は椿の予定表のどこにも入らなかった。楽しむだけの時間には、完了の印をつけられない。

日曜の公園でも、椿は音声講座を聞きながら速足で歩いていた。池のそばで、野間ミナがオカリナを吹いている。丸い音が木々の間を漂っていたが、椿は再生速度を一・五倍に上げた。鳥の声まで講師の言葉を邪魔する雑音に聞こえ、イヤホンをさらに押し込んだ。

足元へ一枚の葉が落ちた。虫に食われ、端が星のように欠けている。拾おうとした野間と手が重なった。

「この公園で、いちばん役に立つ葉はどれでしょう」

「木についている葉じゃないですか。光合成するから」

「では、役に立たない葉を一枚選んで、夕食まで持っていてください」

野間は答えを褒めも否定もせず、オカリナを口へ戻した。椿は欠けた葉を捨てかけたが、ポケットへ入れた。

その後も講座を聞いた。けれどポケットで葉がかさりと鳴るたび、話の要点が途切れた。スーパーでは栄養価と価格を比べ、いつもの鶏胸肉を籠へ入れる。菓子売場に、葉と同じ星形の砂糖菓子があった。買う理由はない。甘いものは作り置きにならず、資格にも関係しない。

椿は棚の前を一度通り過ぎた。夕食まで持つという課題なら、葉はもう十分役目を果たしている。そう考えた瞬間、役目を与えたくなっている自分に気づいた。

店を出ると、まだ日が高かった。いつもなら最短で帰り、夕食を作る時刻だ。椿は音声講座を停止し、欠けた葉をベンチの上へ置いた。ノートを開き、勉強の要点ではなく、その不揃いな輪郭をゆっくり描き始めた。