懲役三十年、三日目

不破槻乃は二十四歳で刑務所へ入り、三日後、五十四歳になって出てきた。

身体は二十四歳のままだった。

仮想刑務所《更生時間》では、脳内時間を引き延ばし、三十年分の服役を七十二時間で終える。税金も施設も節約でき、受刑者は「人生を奪われる痛み」を十分に学べると政府は宣伝した。

槻乃は飲酒運転で人を死なせた。仮想の独房で一万九百五十回、朝を迎えた。壁の染みを数え、季節のない運動場を歩き、被害者遺族へ出せない手紙を書いた。髪が白くなった感覚も、膝が痛む感覚も与えられた。

釈放の日、看守が「お疲れさま」と言った。その顔は入所時と同じだった。

外では母が昨日と同じ服で待っていた。友人からは《三日で出てくるなんて軽すぎる》と通知が届いた。被害者の家族にとっても、葬儀すら終わっていなかった。槻乃が独房で老いていく間、母は面会予約の入力画面を閉じる暇さえなかったのだ。

槻乃は若い身体を持て余した。階段を駆け上がれるのに、心は手すりを探した。コンビニの新商品も変わらず、信号の音も同じだった。自分だけが三十年を失ったのに、世界には一秒も刻まれていないように見えた。

国は彼女を更生成功例として広告に使おうとした。槻乃は断り、仮想刑の相談員になった。入所前の若者たちは「三日なら楽勝」と笑った。彼女は三十年分の沈黙で彼らを見た。

ある少年が尋ねた。「中で反省すれば、外の人も許してくれる?」

「外の人には、まだ三日目だから」

槻乃は答えた。「あなたが変わっても、相手の時間を追い越してはいけない」

彼女は被害者の家族へ、仮想で書いた手紙を送らなかった。代わりに、現実の一日ごとに一行ずつ書き直した。返事はなかった。

釈放から一年目、槻乃は海辺で三百六十五回目の日没を見た。仮想刑務所の日没は同じ映像を繰り返していたが、その日の雲は途中で崩れ、光の色が変わった。

三十年を終えた彼女にとって、それはまだ現実の一年目だった。

槻乃は初めて、急がずに生きる刑を自分へ言い渡した。