扉を開けたままの軍議
地下軍議室の厚い扉を見ると、カナレの呼吸は浅くなる。
敵国で捕らえられたとき、窓のない部屋へ七日間閉じ込められたからだ。
皇帝ルグラントは、最高機密の会議でも扉を開けさせていた。廊下には防音結界を張り、カナレの席から出口が見えるよう机まで斜めに置く。
「間者が侵入します」と将軍が訴えた。
「余のいる部屋へ入れるなら、将軍に迎えよう」
誰も二度は反対しなかった。
その日、カナレは敵都の水路図を求められた。彼女は元水道技師で、地下構造を知る唯一の人物だった。
「兵を水路から入れれば、民間区へ直接出ます」
「だから有効なのだ」と将軍が言う。
「私は案内しません」
会議室が凍る。
将軍は扉へ手を伸ばした。
「作戦を聞いた以上、協力するまで出せません」
ルグラントの剣が抜かれる。斬ったのは将軍ではなく、扉の蝶番だった。重い板が外側へ倒れる。
「今後、この部屋に扉はない」
「陛下、一技師の恐怖で軍議室を壊すのですか」
「彼女の拒否を監禁で変えようとしたから壊した」
皇帝はカナレへ向く。
「協力できる案はあるか」
「攻城前に、水路から市民を避難させるなら。三日ください」
「四日使え」
「侵攻が遅れます!」と将軍が叫ぶ。
ルグラントは出陣命令書へ停止印を押した。
「遅らせる」
カナレが出口を見る。
「今日は帰ってもいいですか」
「もちろんだ。明日来るかも、おまえが決めろ」
彼女が廊下へ出るまで、皇帝は誰にも追わせなかった。
その後、全軍へ新命令が伝わった。
廊下では護衛が三人、カナレを送ろうと待っていた。彼女が大勢に囲まれるのを嫌うと知るルグラントは、人数まで勝手に決めない。
「一人だけお願いできますか。女性の騎士を」
皇帝は候補を二人呼び、カナレ自身に選ばせた。安全を理由に別の不快を押しつけない。それが皇帝の保護だった。
選ばれなかった騎士にも理由は告げず、カナレの好みを公の評価へ変えないよう配慮した。
「侵攻は避難完了まで停止。カナレへの拘束、監禁、強制協力を禁ずる。余の勝利より、彼女が自分の足で退室できることを優先する」