故障した電動ベッド

柊木重孝は、療養室から消えた。

七十六歳の柊木は、翌朝、本人の反対を押し切って別の病院へ転院させられる予定だった。午後七時、息子の赤埴航平、看護師の棚倉美冬、医療機器技師の榎並秀嗣が病室で今後を話し合った。口論の末、三人は廊下へ出て、柊木を一人にした。扉前には警備員が立った。

七時十分、電動ベッドの警報が鳴った。榎並は点検のため病室へ入り、ベッド周囲のカーテンを五分だけ閉めた。やがて「交換が必要だ」と告げ、上に残った毛布と枕を別のストレッチャーへ移し、故障ベッドを廊下へ押し出した。警備員は天板に誰もいないことを上から確認した。新しいベッドを入れ、十五分後に看護師が戻ると、柊木はいなかった。

窓は安全金具で十センチしか開かず、洗面所にも隠れ場所はない。廊下を通ったのは、榎並と故障ベッドだけだった。

航平は「父は歩けない」と声を荒らげた。

私は搬出記録とベッドを見比べ、三つの事実を拾った。

警備員は、柊木がベッドの上にいないことだけを確かめていた。金属製の台座は低く、覆い板の内部まで覗く規則はない。榎並が普段から同型機を分解していたことを考えれば、家具ではなく機械として見るべきだった。

一つ。故障ベッドの型式重量は百十八キロなのに、サービスエレベーターの秤は百三十四キロを示していた。

二つ。通常、台座中央にある四十二キロの蓄電池が外され、病室の収納庫へ置かれていた。空いた区画は幅六十五センチ、長さ百三十センチある。

三つ。台座の点検蓋には新しい工具傷があり、内側の縁に柊木の青い寝間着と同じ繊維が挟まっていた。

棚倉はベッドの下をのぞいた。「お父さまを、ここへ?」

「蓄電池を外した空洞に横向きで入れ、点検蓋を閉じた。上から見れば空のベッドです。重さだけは隠せなかった」

榎並は、転院先で強制的な治療を受けさせる計画を柊木から聞き、逃走を手伝った。サービス階で蓋を開け、職員用出口から車へ乗せたのだという。

重量、抜かれた電池、寝間着の糸。仕掛けはベッドの空洞一つだった。

航平が言葉を失うなか、私は故障札を裏返した。

「壊れていたのはベッドではありません。上に人がいるはずだという、見張る側の見方です」