星屑の裾に触れた願い
星屑を縫い込んだドレスの裾に触れて願いを言えば、その願いはかなう。代わりに、ドレスの持ち主が抱く未来の夢が一つ消える。
オデットは、願いを売る店で働いていた。
客の願いがかなうたび、自分の夢が薄くなる。海辺に小さな菓子店を開く夢。知らない町を一人で歩く夢。いつか誰かと同じ家へ帰る夢。
店主は言った。
「夢など、持っているだけでは腹の足しにならない」
最後に残ったのは、妹と再会する夢だった。幼い日に別れ、消息はない。それでもオデットは、いつか同じ髪色の女性が店の戸を開けると信じていた。
夢が消えるたび、裾の星も一つ黒くなる。以前は夜空のようだったドレスに、今は一粒しか光がない。店主は、それだけ多くの客を幸福にした証だと言った。けれどオデットには、自分の未来を少しずつ他人へ切り売りした穴に見えた。最後の星だけは、銅貨を山ほど積まれても渡さないと決めていた。
閉店間際、裸足の少女ミラが駆け込んだ。
「お母さんを起こしてください」
母親は広場の馬車で眠っているという。毒茸を食べ、治癒師から今夜を越せないと言われたらしい。少女の掌には銅貨が三枚しかない。
「願いは一つ。でも代金は、あなたじゃなく私が払うの」
オデットが説明すると、ミラは裾から手を離した。
「お姉さんの夢がなくなるなら、いいです」
「どうして?」
「夢がなくなるのは、死ぬより寂しそうだから」
その言葉が、残った夢の形をはっきりさせた。
オデットは少女の小さな手を取り、もう一度星屑の裾へ置いた。妹と再会できたなら、きっとこうして手をつないだだろうと思った。
「言って」
ミラは泣きながら願った。
「お母さんが、朝ごはんを食べられますように」
裾の星が一つずつ消える。遠いどこかで、眠る女が息を吸う気配がした。
同時にオデットの胸から、待ち続けた妹の顔が抜け落ちた。似ている人を探してしまう癖も、戸口の鈴に振り返る理由もなくなる。
少女は何度も礼を言って走り去った。
オデットは空になった心で店の看板を裏返す。そこには自分の字で、「いつか妹と海へ」と書かれていた。
けれど、その妹が誰なのかはもう分からなかった。