星糸の裂け目

王妃主催の星灯夜会で、歌姫ベネディアの衣装が裂けた。

 背中から裾まで、夜空を織ったような青いドレスが真っ二つになる。悲鳴の中、侯爵カストルは婚約者を振り返った。

「キルステラ・セインツ。君が仕立て室へ入ったことは分かっている」

 ベネディアが破れた布を胸へ寄せる。

「わたくしが殿下のために歌うのを、嫌っておられたのでしょう」

「才能ある者を妬み、晴れ舞台を壊す女とは婚約を破棄する」

 キルステラは裂け目へ目を凝らした。星糸は刃で切れば光が消え、強く引けば光を残したままほどける。今夜の糸は、青白く瞬いている。

「告発は、わたくしがドレスを刃物で傷つけたという一点ですね」

「仕立て室にいたのは君だ」

「ええ。王妃陛下の依頼で検品しておりました」

 玉座脇から、王妃エンベリアが立ち上がった。彼女は誰も叱らず、手元の糸巻きを一つ掲げる。

 王家の星糸には、最後に加えられた力の方向を光で残す性質がある。糸巻きから一本を引き、裂けた部分へ重ねると、光の矢印が浮かんだ。

 外側ではなく、ドレスの内側から左右へ。

「刃物ではない」と王妃は言う。「内側に縫い込んだ膨張石が、歌の高音で膨らみ、布を押し裂いたのだ。石を仕込めるのは、着用前にドレスを受け取った者だけ」

 ベネディアの指が止まる。衣装は今朝から、彼女の私室にあった。

 彼女はカストルへ助けを求めるように目を向けた。だが侯爵は、歌姫より先に視線をそらした。王妃が何も問わなくても、仕組んだ二人の縫い目はそこでほどけた。

 キルステラはもう彼らを見ていなかった。裂けた布は縫えても、踏みにじられた名まで同じ糸では戻せない。

「キルステラ、私は歌姫に惑わされた。君の技術を試すつもりでもあった。婚約破棄は撤回する」

「わたくしの技術は、あなたの悪意を繕うためにあるのではありません」

 エンベリアが壇上から手を差し出した。

「王立工房の長が空席です。破れぬ服を作る者より、裂け目から原因を読める者を置きたい」

 キルステラはカストルに背を向け、王妃の手を取った。