最初の登録者
加々美圭吾は、亡くなった姉の配信チャンネルを整理していた。料理や旅行の動画が百本以上あり、消す決心がつかない。広告収益を遺族口座へ移すには、登録者千人という条件だけが足りなかった。
姉のノートには、配信に関係のない郷里の習俗が書かれていた。一人で始めた講では、二人目の席を初めから空けておく。見えない最初の一人が、そこを取っているからだ。その下に、姉の字で一文だけある。
《自分の配信を、自分の別アカウントから登録してはいけない》
圭吾は迷信だと思った。チャンネル分析では、九百九十九人のほかに《集計対象外:一名》という薄い行が以前からあった。問い合わせても、担当者にはその行が見えない。登録者は九百九十九人。自分の仕事用アカウントで、登録ボタンを一度だけ押した。
表示は一〇〇〇にならず、一〇〇一になった。
登録通知は一回しか鳴らなかった。増えた二人のうち、圭吾のアカウントは二番目だった。最初に増えた登録者は名前も画像もなく、登録日は姉が生まれる前の日付になっていた。
直後、非公開だった動画が一本公開された。
【初めまして、圭吾へ】
姉が台所でカメラを調整している。生前より若い。画面外へ向かい、「最初の人が来たら、弟は入れないで」と言った。背後の冷蔵庫に、幼い圭吾の写真が逆さに貼られていた。
圭吾は登録解除を押した。自分の登録だけ消え、数字は一〇〇〇のまま。空欄のアカウントはチャンネル所有者へ変わった。
翌朝、携帯会社のアプリから通知が届いた。
【新しい端末で回線の共有を開始しました】
端末名:最初の登録者
電話番号:圭吾と同じ
圭吾がサポートへ電話すると、本人確認のため生年月日を求められた。答える前に、受話口の向こうで自分と同じ声が正確な日付を言った。
オペレーターは明るく告げた。
「先にお答えいただいた端末を、ご本人として登録しました」
スマホのアンテナが消えた。代わりに姉のチャンネルから通知が来る。
【加々美圭吾がチャンネル登録を解除しました】