未来客の三分粥
時計塔の下にある食堂《針休め》は、注文から三分で出す《三分粥》だけを売っていた。店主ミツバは、急ぐ人ほど食事を抜くと考えたのだ。
けれど町の者は「粥なら家で作れる」と通り過ぎた。開店七日目の夜、ミツバが余った鍋をかき混ぜていると、すべての時計が同時に逆回りし、扉の鈴が鳴った。
飛び込んできた青年イオルの服は、見たことのない銀布でできていた。胸の数字が、百八十から一秒ずつ減っている。
「三分で、食べられるものを」
時間街道を越えて十二年後から来た薬運びだという。未来の都では灰熱病が広がり、彼の鞄にある原薬を分析所へ届ければ治療薬が作れる。だが時間街道は通る者の体温と力を奪う。到着まであと一度跳ばねばならないのに、膝がもう立たない。
胸の数字は百五十二。
ミツバは煮上がっていた《三分粥》を深椀へよそった。細かく砕いた穀粒を鶏の出汁で炊き、溶き卵を一筋。熱すぎない温度まで、冷たい器を外側へ当てて落とす。匙を置いた時点で、数字は百三十九だった。
「噛まずに飲まないで。二回だけ噛めば十分です」
イオルは一匙目を急いで口へ入れ、目を見開いた。柔らかな粒が舌でほどけ、塩気が空っぽの体へ輪郭を戻す。二匙、三匙。青白かった指に色が差し、震えていた膝が卓の下で止まった。
数字は九十。
「未来では、食堂がないの?」
「ある。でも、時間のない者ほど栄養薬で済ませる」
「それで倒れて、もっと時間を失う」
イオルは苦く笑い、残りを一定の速さで食べた。急かす鐘が鳴っても、匙をこぼさない。最後の卵を飲み込んだとき、数字は三十一。彼は自力で立ち、鞄の紐を締め直した。
「走れる」
代金を尋ねる余裕もなく、彼は見慣れない透明貨を一枚置いた。数字が五になる。
「十二年後にも、この店はありますか」
「今日つぶれなければ」
「なら、予約を一つ。十二年後の同じ時刻に」
数字がゼロになり、青年の姿は時計の針のように細くなって消えた。直後、塔の時計は正しく動き始める。
透明貨の中では、小さな文字が未来の日付へ変わっていた。表には《灰熱病終息記念貨》、裏には《食堂・針休め》の絵。
ミツバが驚いて顔を上げると、またすべての時計が一秒だけ逆へ進んだ。今度の鈴の向こうには、胸の数字を百八十から減らす別の影が立っていた。