村人百人の命は銅貨一枚
領主は、干ばつで払えなかった税を理由に村人百人を奴隷として売ろうとした。
契約書には利息が重なり、金貨一万枚の借金とある。公正価値鑑定士サリアが異議を唱えると、領主は鼻で笑った。
【公正価値鑑定:対象を強制や偽りのない条件で交換した場合の、正当な価値を表示する】
「契約は契約だ。貧民の命など、借金の足しにもならん」
広場には魔法の競売台があり、落札されれば首輪が二度と外れない。サリアの両親も列にいた。
彼女は村人の命を鑑定しなかった。
値を付けるべきは、領主が振りかざす借金そのものだ。
契約書へ触れると、金貨一万枚という数字が剥がれ、隠された内訳が現れた。存在しない治水費、領主軍の宴会費、百倍に改竄された利率。強制も偽りも除いた公正価値は――銅貨一枚。
「そんな査定は認めん!」
「あなたではなく、この契約魔法に聞きます」
サリアは財布から銅貨を一枚出し、競売台へ置いた。
澄んだ音が鳴る。
借金完済。
百人の首輪が同時に外れた。契約書は白紙へ戻り、領主の胸にだけ赤い数字が浮かぶ。村へ返すべき不当徴収額、金貨二万三千枚。
群衆が静かになった。次いで、笑い声が広がった。
「払えるのですか、領主様」
サリアが尋ねる。
領主の屋敷も宝石も、競売台が差し押さえ対象として光り始めた。さきほどまで槍を構えていた兵士は、給金未払いの表示を見て領主側から離れる。
父が拾った銅貨をサリアへ返した。
「高い買い物だったな」
「百人を買い戻したなら、安すぎます」
競売台はさらに、村人が何年も無償で直した堤防や街道の価値を計算し始めた。領主の負債は秒ごとに増え、ついには城まで差し押さえられる。彼は命だけは見逃せと叫んだ。サリアは静かに、公正な裁判を受ける権利は誰にも同じ価値があると答えた。村人たちは彼を売らず、法廷へ送る。その選択こそ、領主と彼らの価値の差だった。
魔法の天秤が彼女の頭上に現れ、職業名を正しい価値へ釣り合わせた。
【職業:公正価値鑑定士 → 天秤価値裁定商】