栗ご飯の皮むき
秋の夜、日茉莉は夫の創士と栗の皮をむいた。
栗ご飯を食べたいと言ったのは創士だが、鬼皮の硬さを知らなかったらしい。
「包丁が入らない」
「熱湯につけると剥きやすいって」
二人で動画を見ながら試す。鬼皮は取れても、渋皮が実へ貼りつく。日茉莉の栗は角張り、創士のは半分ほど小さくなった。
一時間かけて、ようやく米二合分が揃った。
炊飯器へ酒、塩、昆布と一緒に入れる。
待つ間、剥き損ねた欠片を小鍋で甘く煮た。台所には栗の青い匂いと砂糖の香りがした。
炊き上がると、栗は黄色くほくほくしていた。形の崩れたものも、米へ混ざれば気にならない。
「来年は剥いてあるのを買おう」
創士が言う。
「来年になったら忘れてるよ」
翌日、残りをおにぎりにした。冷めると栗の甘さがよく分かる。
職場で食べながら、日茉莉は爪の間に残った渋皮を見た。苦労の跡なのに、少し嬉しかった。
翌年、創士は本当に忘れ、生栗を一袋買ってきた。
今度は専用の皮むき鋏も一緒だった。
二人で食卓に新聞紙を広げる。刃が栗へ入る乾いた音、湯の湧く音。まだ炊いてもいないのに、去年の栗ご飯の湯気が部屋へ戻ってきた。
専用鋏を使っても、皮むきには時間がかかった。創士は道具のせいにできず、去年より丁寧になる。日茉莉は形のよい栗を五つだけ選び、炊飯器の上へ並べた。炊き上がったとき、どれが誰の剥いたものか当てるためだ。蓋を開けると全部が米に埋まり、分からなくなった。二人で探しながら食べ、結局どちらも自分の栗だと言い張る。新聞紙の上には渋皮と木屑のような香り。秋のご飯は、食べる時間より作る時間のほうが長く温かかった。
食後、創士は鋏を洗って乾かし、栗と同じ籠へしまった。来年忘れないためだ。日茉莉は「道具の場所を忘れる」と笑う。二人の爪にはまだ渋皮の茶色が残っていた。
夜、新聞紙を畳むと渋皮が乾いた音を立てた。秋の長い支度を包み、二人は来年まで鋏の場所を覚えておくことにした。