梯子の最後の一段
ハロルドの廃屋で、いちばん乾いている場所は屋根裏だった。
問題は、そこへ上がる梯子の下三段が腐っていることだ。手を掛ければ粉が落ち、足を載せれば折れる。床には雨水が染み、寝袋を広げられる場所がない。今夜眠るためには、屋根裏へ上がる道を直すしかなかった。
ハロルドは王立測量隊で二十年、地図に道を引いてきた。崖を避け、川を渡り、兵が最短で進める線を見つけても、隊長は「紙に線を引くだけ」と笑った。最後には、危険だと記した谷へ軍を通す命令を拒み、辺境へ追われた。
今日測るのは、国境ではない。梯子の一段だ。
三本の横木には、迷わず足を置けるよう中央へ浅い溝も刻んだ。暗闇でもつま先が位置を知る、小さな道標だった。
腐った横木を抜き、納屋から樫の端材を持ってくる。左右の桟の間を紐で測り、鉋をかける。幅が指の爪ほど違うだけで、体重を掛けたときに捻れる。ハロルドは何度も削り、当て、また外した。
夕暮れに、一本目がぴたりと嵌まった。
二本目、三本目。木槌で楔を打ち込むたび、梯子全体が強くなる。最後に自分の体重を預けると、樫は低く鳴っただけで、折れなかった。
一段ずつ上る。
屋根裏の小窓から、捨てられた畑が見えた。雑草だらけだが、平らで、朝日も当たりそうだ。明日は窓際の一列だけ耕せばいい。そう考えると、荒地ではなく予定表に見えた。
下の暖炉では、塩漬け肉を入れた麦粥が煮えている。ハロルドは鍋と椀を籠に入れ、直した梯子をもう一度上った。湯気が後ろからついてくる。
屋根裏に腰を下ろしたとき、直した三段が淡く光った。
古い家の柱から、紙を擦るような声がする。
『帰宅経路を確認。居住者を家主として登録しますか』
ハロルドは匙を持ったまま瞬いた。王立測量隊では、地図を作っても土地は国王のものだった。自分の名が記された場所は一つもない。
「登録する」
答えると、梁の一角に小さな文字が浮かんだ。
【家主:ハロルド】
【修復率:三パーセント】
わずか三パーセント。それでもゼロではない。明日は窓際の畑一列、その次は屋根裏の小窓。進む道を決めるのは、もう隊長ではなく彼だ。
粥の表面で、脂が小さく光っている。匙を入れると、湯気に胡椒の香りが混じった。
遠征隊へ続く地図を描く代わりに、ハロルドは自分の家の最初の三段を完成させた。今夜は、その一番上で温かな椀を抱えた。