横持ち二百メートル
物流会社へ入った百舌鳥直樹は、初日の朝、倉庫長から厳命された。
「この精密機器、第二倉庫まで横持ちで頼む。距離は二百メートル」
箱には《天地無用》と大きく書かれている。
直樹は箱を横向きに抱えた。
「二百メートル、ずっとこの角度ですね」
「角度? 普通に運べばいい」
「横持ちなのに縦に持つんですか」
「縦でも横でも、倒さなきゃいい」
矛盾した指示である。
直樹は安全を期し、作業員六人を横一列に並べた。
「全員、カニ歩きです。進行方向へ体を向けると横持ちではなくなります」
作業員たちは新人の熱意に押され、箱を抱えて横歩きを始めた。
倉庫長が叫んだ。
「何でそっちへ行く! 第二倉庫は正面だ!」
「正面へ進んだら縦持ちです!」
「荷物の向きじゃない!」
そこへ配送先の技術者が来た。
「振動厳禁ですよ。横持ち区間は短くしてください」
直樹はさらに緊張した。
「横向きでいる時間が長いと壊れるんですね」
「横向き?」
「では途中で縦に戻し、また横に?」
「戻すな! 傾けるな!」
作業員たちはカニ歩きのまま停止した。通路に長い渋滞ができ、フォークリフトの運転手がクラクションを鳴らす。
安全管理員が駆けつけた。
「荷物より先に六人の腰が壊れる。台車を使え」
「台車は前向きに進みます」
「それが普通だ!」
直樹はなおも納得できず、無線で確認した。
「横持ち中、正面通行が困難。縦持ちへ切り替える許可を」
本社の配車係は沈黙した後、倉庫長を呼んだ。
倉庫長は床へ地図を広げた。
「物流で横持ちってのは、同じ敷地内や近隣拠点の間を短距離輸送することだ。幹線輸送へ載せる前の脇の移動であって、荷物を横に持つ意味じゃない」
「では、普通に台車へ載せて?」
「最初からそうしてくれ」
箱は台車で一分足らずの第二倉庫へ着いた。
作業員の一人が腰を押さえた。
「新人、次は縦持ちって言われても、逆立ちさせるなよ」
直樹はメモ帳へ大きく書いた。
《横持ち――人間は前を向いてよい。カニ歩きは禁止》