歌が魔物を呼んだ夜
吟遊詩人ユリセの新曲は、峡谷中の魔物を呼び寄せた。
本来は眠りを誘う旋律だった。だが反響する音程を一つ誤り、洞窟熊も毒蜥蜴も、崖上の翼蛇まで一斉に目を覚ました。
剣士ローディン、槍使いサムエル、薬師ナハトが道を開き、四人は命からがら廃砦へ逃げ込んだ。依頼の鉱石は置いてきたうえ、ローディンの鎧には深い爪痕が残った。
この曲は、三人が初めてユリセへ作詞を頼んだ歌だった。ローディンが盾になり、サムエルが退路を守り、ナハトが傷を縫う。その働きを一節ずつ入れたため、失敗は自分だけでなく三人の名まで汚したように思えた。
廃砦へ逃げ込んだ時も、三人はユリセを中央に置いて扉を閉めた。けれど彼女には、それが最後まで守る約束ではなく、町へ連れ帰って正式に追放するための配置に見えた。
夜が明けるまで、誰も口を開かなかった。
ユリセは竪琴の弦を切った。昔いた楽団でも、舞台で音を外した晩に衣装箱ごと路地へ出された。歌えない吟遊詩人を連れて歩く冒険者はいない。
「砦の裏道から一人で戻ります」
返事はない。ローディンは城壁へ上がり、サムエルは門外へ出て、ナハトは薬棚を探し始めた。
やはり三人は、朝になれば別々に帰るのだ。
ユリセが竪琴を置いて裏口へ向かうと、城壁から縄梯子が降りてきた。ローディンが自分の剣帯を梯子の留め具に使っている。
「帰路は正門だ。裏は崩れてる」
門外から戻ったサムエルは、折れた槍の石突きを竪琴の横へ置いた。
「新しい柄を買うまで預かれ。次の町で一緒に選ぶ」
ナハトは見つけた薬草を煮出し、四つの杯へ注いだ。三つを先に配らず、ユリセの前の一つが満たされるまで待つ。
「喉を傷めた。今夜は歌うな」
「歌わない私に、何ができますか」
ローディンは城壁から降り、切れた弦を拾った。
「魔物が来る音を知った。今度は罠に使える」
サムエルは門の前へ座り、最初の見張りを引き受けた。ナハトは竪琴を包む布を縫い直す。
夜明け、峡谷の向こうで魔物の影が動いた。
ユリセは歌わず、指で合図を送る。三人はそれぞれの武器を取り、彼女が次の音を選ぶまで砦を離れなかった。
切れた弦の竪琴にも、帰りの隊列には最初から場所があった。