死者の部屋へ入るな
山荘ホテルの宿泊型推理ゲームで、参加者は支配人から注意を受けた。
「脱落した方は三〇三号室へ。生者は決して、死者の部屋へ入らないでください」
第一夜、作家役の男性が脱落し、三〇三号室へ連れていかれた。
残された参加者たちは囁き合う。
「死者の部屋って何がある?」
「遺体安置所」
「ゲームで本当に遺体を用意する?」
「宿泊費が高かった理由かも」
「高級プランの価値を死体数で測らないで」
廊下の奥から、笑い声が聞こえた。
「死者が笑っている」
「蘇生役がいる?」
「死者同士で情報交換してるのでは」
「それなら入った人が有利」
「でも“生者は入るな”」
「入れば死者扱いになるだけかも」
「だけ、で済む?」
二人目の脱落者が三〇三号室へ入ると、今度は皿の触れ合う音と、カレーの匂いが漂った。
参加者の一人が目を細める。
「死者へ最後の晩餐」
「カレーという選択が庶民的」
「匂いで生者を誘っている」
「空腹を利用した罠ね」
議論は本編の犯人捜しより、三〇三号室の正体へ集中した。
「支配人が一番怪しい」
「死者を管理している」
「ゲームマスターを吊るす?」
「宿泊費の精算ができなくなる」
「現実的な理由で命を救うな」
深夜、部屋の扉が少し開いた。
中から脱落した作家役が顔を出し、小声で言う。
「こっち、デザートもあるぞ」
生者たちは息をのむ。
「死者の勧誘!」
「一人増えるたび料理が豪華になる仕組み?」
「早く脱落した方が得なのでは」
「デスゲームの価値観が崩れる!」
全員が我慢できず、三〇三号室へ突入した。
中では脱落者とスタッフが、カレーを食べながらモニターでゲームを観戦していた。
支配人が頭を抱える。
「ここは待機室です。死者役が生者へ情報を漏らさないよう、入室禁止にしただけです」
テーブルにはプリンが一つ残っていた。
参加者全員はルール違反で脱落となり、三〇三号室へ収容された。
支配人は追加のカレーを運びながら、次回から〈脱落者控室〉と書くことを決めた。
死者の部屋は、山荘で一番にぎやかだった。