水を捨てた黄金バター

砂漠商隊では、乳牛の町で買ったバターが三日で酸っぱくなった。

隊商長サーディは、溶けた樽を見て舌打ちする。

「北では銅貨、砂漠の向こうでは銀貨になる。だが運べなければ泥と同じだ」

前回は十樽のうち七樽を砂へ捨てた。損失を埋めるため荷運び人の賃金が削られ、宗一郎を含む新参者は水代まで自腹になった。

それでも商会の古参は、氷魔石を増やせと言う。氷代だけで仕入れ値の倍になり、利益など残らない。

元乳製品工場員の乾宗一郎は、樽一つを鍋へ移した。

弱火で静かに溶かし、表面へ浮く白い泡をすくう。ぱちぱちという水の音が消えるまで待ち、底へ沈む白い粒を混ぜないよう、布を通して透明な上澄みだけを別の壺へ注いだ。

鍋の中身は三割減ったが、氷魔石は一つも使っていない。

「量が減ったぞ」

「腐りやすい水分と乳の残りを外しました」

宗一郎は説明をそこで切り、金色の油を一匙、焼きたての平焼きパンへ落とした。

熱で香りが開く。焦がし木の実のような甘さが立ち、溶けても水っぽくならない。普通のバターを塗った隣のパンは乳の水分でふやけたが、黄金色の一枚は縁まで香ばしい。

サーディは二枚を食べ比べ、壺をあえて日の当たる荷台へ置かせた。失敗すれば、宗一郎を次の町で降ろすと言い渡して。

二十日後、商隊は砂嵐を越えて市場へ着いた。

従来の樽は蓋を開ける前から酸臭を放ち、冷却石を入れたものさえ半分が捨てられた。樽の隙間から流れた脂で、荷布まで汚れている。

宗一郎の壺は、金色のまま澄んでいた。砂に熱された蓋を外しても嫌な臭いはなく、匙ですくえばさらりと流れる。

市場の料理人が羊肉を焼き、その黄金油を回しかけた。

香ばしい湯気が通りを満たし、香りだけで向かいの店から客が流れてくる。肉の表面は薄く艶を帯び、冷めても白い脂の塊にならない。

普通のバターより一壺が軽く、氷も樽も要らず、常温で運べた。

サーディが北で払った値を言うと、料理人は三倍の銀貨を積んだ。

「今ある二十壺を買う。次便は百壺だ」

サーディは腐った樽を砂へ捨て、空いた荷車を指した。

「宗一郎、帰路から乳の町へ寄る。次からバターのまま買うな。全量、お前の黄金にして運ぶ」