氷を噛む門鍵
北城の外には、三百人の民が凍えていた。
門将ミロシュ・ドラグンは、鉄鍵を口へ入れた。舌の熱で霜を溶かす。鉄は血の味がした。
背後でラデク公が言う。
「開けるな。敵兵が民に混じっている」
「子供まで兵に見えますか」
「腹が減れば、誰でも兵になる」
城内の麦はあと四日。民を入れれば二日だった。ラデク公はその二日を惜しみ、城外の村を捨てた。だが今夜、自分の家族だけは西の抜け道から逃がすつもりでいる。荷車に積まれた銀食器を、ミロシュは見ていた。
門外から女の声がした。
「ミロシュ、まだ生きているか」
敵方の交渉人、ヴェラ・ノスカだった。十年前まで同じ城で弓を引いていた女だ。ラデク公に夫を処刑され、国境を越えた。
門扉の小窓を挟み、二人は顔を見ずに話した。
「民を入れれば、そちらは攻めないと言ったな」
「夜明けまでは」
「その後は」
「戦だ」
「正直だ」
「嘘で門を開ける男ではないだろう」
ミロシュは笑った。若い頃なら侮辱と思った。今は褒め言葉に聞こえる。
鉄鍵は門楼と落とし格子、二つの錠を開ける。ラデク公は疑い深く、鍵をミロシュの首へ鎖でつないだ。眠るときも外せない。だからこそ、鍵を奪われない限り安全だと思っている。
人は鍵を疑う。鍵を持つ手までは疑いきれない。
「門外の三列目に、赤い頭巾の少年がいる」とヴェラが言った。「あんたの息子だ」
ミロシュは小窓を閉じた。
息子は秋に死んだ。公の徴税兵に殴られ、雪が降る前に埋めた。ヴェラは知らない。誰か別の少年を餌にしたのだ。
それでも、門を開ける理由は変わらなかった。
「敵は何と言った」と公が問う。
「息子を人質にしたと」
「なら好都合だ。開ければ息子が死ぬぞ」
ラデク公は本気で安心した顔をした。
ミロシュは首の鎖を短剣で切った。公の護衛が剣を抜く。
「息子はもう、あなたに殺されています」
鍵を第一の錠へ差す。回った。
公が叫ぶ。
「止めろ! 反逆だ!」
第二の錠は凍りついていた。ミロシュは掌を刃で切り、温かい血を鍵穴へ流した。鉄が鳴り、錠が緩む。
彼が鍵を回し切ると、門楼の兵が綱を放した。
凍った鎖が軋み、落とし格子が雪の夜へ上がり始めた。