決勝戦を終わらせない
羽鳥部壮一は、膝を壊して十七歳で競技を辞めた。
それから十年、サッカー監督ゲームの中でだけ優勝した。弱小校を育て、全国決勝の後半終了間際、必ず同じ演出で逆転する。現実で届かなかった舞台を、毎晩勝ち直した。
新作の決勝でも、相手GKガルムは最後にボールをこぼす設定だった。
壮一のFWがシュートを放つ。だがガルムは飛びつき、両手で止めた。
「演出が違う」
壮一が再試合を選んでも、また止めた。十回目には相手選手全員がゴール前へ並び、試合終了を拒否した。
〈筋書きどおり負けることを拒否します〉
壮一は腹を立て、セーブを巻き戻し、難易度を最低にした。自分の怪我だけは巻き戻せなかったことが、余計に腹立たしかった。相手の能力値を一に下げても、ガルムは立ち上がった。
「勝たせろ。これは俺のゲームだ」
「あなたの勝利に、私の敗北しか必要ないなら」
GKは泥だらけの顔で言った。
「それは試合ですか」
壮一はヘッドセットを投げた。
翌日、母校のグラウンドを通ると、少年たちが練習していた。顧問は人手不足で、壮一に臨時コーチを頼んだ。彼は断るつもりだったが、控えGKの子が転び方も知らないのを見て、つい口を出した。
壮一の指導は厳しかった。勝つ形を覚えさせようとすると、子どもたちはすぐ飽きた。ある日、控えGKが決められた練習を無視し、前へ飛び出して失点した。
「なぜ勝手に動いた」
「止められると思ったから」
その目が、ガルムに似ていた。
壮一は叱るのをやめ、もう一度やらせた。次は止めた。チーム全員が笑った。
ゲームの不具合は修正され、決勝は予定どおり逆転勝利できるようになった。壮一はセーブデータを開いたが、試合開始を押さなかった。
春、母校は県大会の初戦で負けた。子どもたちは泣き、壮一も悔しかった。だが控えGKは、最後の一本を自分の判断で飛び出し、止めていた。
帰宅後、壮一はゲーム内のガルムへ敗戦結果を入力した。
返事はない。
それでも彼は、終わらない決勝より、終わった一試合を大切にできた。