泊まった夜の雪税
温泉町アルマの宿は、冬になると客より税札の方が多かった。
「寝台税」は寝台一つにつき月銅貨十枚。満室でも空室でも同じである。二十室を持つ老舗は払えたが、六室だけの家族宿は大雪で客が来ない月にも六十枚を請求された。
宿主たちは寝台を壊して台帳から減らし、旅人が来ても床へ寝かせた。町の評判は落ち、さらに客が減った。
新町長ベネトは、徴税台帳ではなく各宿の宿泊帳を集めた。
「寝台の数ではなく、眠った夜の数に課します」
規則は一泊につき銅貨一枚。幼児と吹雪で避難した者は無料。宿主は毎朝、玄関の小板へ宿泊人数を書き、町役場の大板に合計が写される。税収は雪かき橇と街道標識だけに使う。
「客が来ない月は?」
小宿の女将が聞き返す。
「税も零です」
旅人自身も宿の小板を見られるため、泊まっていない客を足して宿主へ請求することはできない。
「では町は何で雪をどけるの」
「客が来ないのに取っても、宿が潰れるだけです。最初の橇は、役場の飾り馬車を売って買います」
ベネトが本当に金箔の馬車を競売へ出すと、宿主たちはようやく新制度を信じた。
最初の雪の日、橇は届いたが、引く人足を雇う金はまだなかった。
ベネトが自分で綱を握ると、六室宿の女将が隣に立った。
「命令書は?」
「ありません」
「なら手伝うわ。道が開けば、うちにも一泊分の税を払う客が来る」
老舗宿の若旦那、湯守、菓子屋も綱を取った。宿同士は客を奪い合っていたが、街道の雪だけは一軒でどけられない。
皆で橇を押すうち、誰かが「雪税だ」と笑った。
「その税率は?」
「汗一滴。払い戻しは温泉一回」
町中が笑い、作業は夕刻まで続いた。
日が沈む頃、街道の雪から古い道標が顔を出した。すると峠の向こうから、一人の旅人が歩いてきた。
「今夜、空いている宿はありますか」
六室宿の女将が手を挙げる。壊さず残していた最後の寝台へ、初めて客が入った。
翌朝、彼女は玄関の小板に「一泊」と書き、税箱へ銅貨一枚を落とした。
町の大板にも、最初の一行が刻まれる。
『泊まった夜、一。雪かき橇へ、一。』
その下で、新しい街道標識が湯気の向こうに立っていた。