洗濯会議は延期される

 宮路田晃と野末悠理は、同じ部屋で暮らしている。

 晃は退職金を少しずつ使い、悠理は親族から受け継いだ倉庫の賃料で生活している。二人とも働いていないが、家事の分担だけは会社員時代より厳密に決めた。

 月曜は晃が洗濯、木曜は悠理が洗濯。

 ところが月曜は雨で、火曜も雨。水曜は晴れたが、担当外だった。

「今日、洗えば乾くよ」

 悠理が言う。

「月曜分は天候不順で延期」

「担当は持ち越し?」

「次の月曜へ」

「一週間分増える」

「不可抗力」

 洗濯籠は、会議を無視して膨らんでいた。

 木曜の朝、悠理が自分の担当分だけ洗おうとすると、晃のシャツと区別がつかない。

「同じ黒ばかり買うから」

「無職の制服」

「私も同じの持ってる」

 二人は籠の前で十五分議論した。

 結局、全部洗うことになった。

 洗濯機が回る間、二人はベランダの物干し竿を拭いた。

「これ、共同作業だから担当回数を半分に」

「来月の会議で審議」

「今日の功績は今日評価して」

「年度末にまとめます」

 脱水が終わる。

 タオル、シャツ、靴下を二人で干した。

 誰のものか分からない靴下は、中央の洗濯ばさみへ並べる。

「共有財産」

「片方なくなったら?」

「残った方を窓拭きへ転職」

「雇用が柔軟」

 午後、風が強くなった。

 シャツが一斉にふくらみ、ベランダへ洗剤の匂いが広がる。

 二人は窓際へ座り、インスタントのコーンスープを飲んだ。

 洗濯物が乾くまで、ゲームも本も開かなかった。ただ布が揺れ、影が床を行き来するのを見た。

「働いてた頃、洗濯って夜だったな」

 晃が言う。

「乾いたかどうか、朝に賭けてた」

「今は一日見張れる」

「贅沢な人員配置」

 二人はカップを合わせた。

 夕方、取り込んだタオルは、日向と風の匂いがした。

 畳む担当を決める会議は、開始三分で延期された。

 代わりに大きな山を二人の間へ置き、一枚ずつ適当に取って畳む。

 所有者が違っても、棚へ入ればだいたい同じだった。

 議事録には、悠理が書いた。

〈洗濯、全件処理。分担制度、実質廃止。次回検討日は未定〉

 晃はその紙を、乾いたシャツの山の下へ入れた。

 柔らかな布と石鹸の香りに挟まれ、会議は誰にも再開されないまま、平和に延期され続けた。