海を運ぶ袋

鰐淵澄香の荷台には、南の海から届いた小さな魚が二十袋積まれていた。空港の貨物口から市立水族館まで一時間。依頼は、開館前の九時までに生体搬入口へ届けることだった。

高速道路で事故渋滞が始まり、到着予想が四十分延びた。助手は寒そうな袋を見て、荷室の暖房を強くしようとした。

「魚が冷えます」

澄香はスイッチを入れさせなかった。袋は酸素封入され、発泡箱に収まっている。急に外側だけ温めれば、箱ごとに水温がばらつき、到着後の管理が難しくなる。

彼女は路肩へ出ず、次のサービスエリアまで一定速度で進んだ。停車すると箱の配置を確認した。後部扉側の四箱だけが冷たい。扉のゴムに小さな隙間があり、走行風が当たっていたのだ。澄香は冷えた箱を中央へ移し、常温の緩衝材を外周に立てた。温めるのではなく、これ以上冷えないようにする。

水族館へは遅延だけでなく、扉側の箱番号と推定水温を伝えた。

「着いたらすぐ開けたほうがいいですか」

助手が聞く。

「急いで袋を開けるほうが危ない。差があるなら馴致を長くしてもらう」

一般道へ下りるころ、一本の袋で魚が底に寄っていた。澄香は箱を揺らさず、懐中電灯を横から当てた。えらは動いている。焦って袋を立て直せば、狭い水の中で魚を傷つける。箱番号だけをもう一度連絡した。

到着は九時十二分。飼育員は各袋の水温を測り、中央の水槽へ浮かべた。

「差は二度。時間をかければ大丈夫です」

魚が一匹ずつ泳ぎを戻すのを見て、助手の肩が緩んだ。

飼育員に渡す記録には、渋滞した場所より箱を動かした時刻が重要だった。澄香は四箱の位置変更を図にして残した。魚は到着した瞬間に元気ならよい荷物ではない。数日後に弱ったとき、輸送中の温度差をたどれることまでが配送の一部だった。

荷台を空にすると、空港から次の電話が入った。今度は海亀の餌になる冷凍魚が、到着便の遅れで待っている。澄香は暖房の故障箇所へテープを貼り、冷えを嫌う荷物と冷えを保つ荷物で、同じ隙間の意味が逆になることを助手に告げた。