深夜二時のレビュー

沙羅のカフェに、毎週火曜の午前二時、匿名の星一つレビューが付いた。

〈焼き菓子は湿っている〉

〈店主は客によって態度を変える〉

〈香りが死んでる〉

私は親友の店を守るため、常連に正直な高評価を書いてもらった。批判した利用者の過去レビューも調べ、矛盾を見つけるたびSNSへ載せた。一人が名前を消すと、沙羅は「理世のおかげ」と私だけに新作を出してくれた。

沙羅は投稿される少し前になると必ず起きていて、通知が鳴る前に「今夜も来る気がする」と言った。

不思議だったが、被害が続けば予感も鋭くなるのだろう。私は午前二時になると沙羅と通話をつなぎ、画面を更新した。レビューが付くたび、彼女は小さく息をのみ、その直後に客数や保存数を確認した。傷ついた人が数字に逃げるのは自然なことだと思った。

ある火曜、私は閉店後まで残った。雨で客は少なく、コーヒー豆を挽く音だけが店内に響いた。ショーケースにはオレンジタルトが三つあったのに、沙羅は「売り切れ」と札を裏返し、私にも食べさせなかった。二時になると、隣町の新しい菓子店へ星一つが付いた。

〈香りが死んでる。見た目だけの店〉

文体が同じだった。

私は沙羅のノートパソコンを見た。レビューサイトの管理画面に、十七個の匿名名義が並んでいた。競合店、辞めた従業員、気に入らない客。その中に、自分の店へ低評価を書く名義も三つあった。

「自分で書いてたの?」

「少しくらい叩かれたほうが、みんな味方してくれるから」

沙羅はタルトをゴミ箱へ捨てた。隣の店の人気商品を真似たが、うまく焼けなかったらしい。捨てられた断面から、焦げた皮と生焼けのクリームが見えた。匿名レビューに書かれていた欠点と同じだった。

「理世も、私がかわいそうだから手伝ってくれたでしょ」

高評価を頼み、批判した人の勤務先まで調べたのは私だ。沙羅は一度も命令していない。ただ傷ついた顔で、助けてと言っただけだった。

私は管理画面を閉じた。これ以上はやめるよう言うつもりだった。

午前二時、まだ開店していない隣の店に、星一つが点いた。