深夜便の台車
遥名は引っ越し用のガムテープを切らしていた。
明日の午前に業者が来る。部屋の中央には閉じていない段ボールが五箱。食器、冬服、本、捨てるか迷っているもの。どの箱も口を開けたまま、遥名の決断を待っていた。
午前二時、近所のコンビニへ向かう。
店の前には深夜便のトラックが止まっていた。荷台の灯りが雨上がりの路面へ四角く落ち、金属の台車が小さく震えている。
自動ドアが開くと、店内には段ボールの匂いがした。
菓子棚の通路を、商品で積まれた台車がふさいでいる。車輪が一つだけ少し曲がっていて、店員が押すたび、きゅ、きゅ、と鳴った。
遥名は文具棚へ行きたかったが、通れない。
店員は気づくと、何も言わずに台車を引いた。重い箱が揺れ、ペットボトル同士が鈍くぶつかる。
「すみません」
遥名が言う。
「どうぞ」
店員が言う。
それだけで道が一本できた。
文具棚には透明、布、紙の三種類のテープが並んでいた。遥名は一番太い布テープを選ぶ。もう戻らない部屋の箱を閉じるには、頼もしい幅に見えた。
レジへ向かう途中、台車の箱に貼られたラベルが目に入った。
朝便。パン。乳製品。雑誌。
午前二時の店へ、朝と書かれた箱が運び込まれている。
誰かが眠っている間にも、朝は段ボールへ詰められ、車輪の音と一緒に近づいてくるらしい。
会計を済ませ、外へ出た。トラックの荷台では、配送員が次の箱を引き寄せている。腕の動きに合わせ、台車の金属がかすかに鳴った。
部屋へ戻る。
五つの箱は変わらず口を開けていた。遥名は迷っていた本を一冊だけ抜き、残りを箱へ収める。布テープを引くと、ばりばりと大きな音がした。
一本目を貼る。
二本目を貼る。
箱の口が閉じる。
引っ越した先でうまく暮らせるかは分からない。ここを出る寂しさも消えない。
それでも、朝はもう近所の店まで届いている。
遥名は次の箱へ手を伸ばした。今夜は五箱すべてでなくていい。もう一箱だけなら、一人で閉じられそうだった。