満員ではない避難所

真壁椋太はマンションへ入るたび、玄関の表示を見る。信用点数九一四。上位住民用のエレベーターがすぐ下りてくるため、数字を意識することはほとんどなかった。

台風で川があふれた夜、避難所の体育館でも同じ数字が読まれた。

《真壁椋太:入所可》

《真壁照葉:入所待機》

祖母の照葉は五八八点だった。現金で暮らし、端末の質問に答えず、行政連絡を何度も未読にした。悪いことをしたわけではない。ただ、信用を測る機械へ自分を説明しなかった。

避難所は空いていた。

窓越しに、乾いた毛布が並ぶ。百枚以上あるのに、人は三十人ほどしかいない。災害時の寝床は点数順に確保され、上位者がまだ到着していなくても、その枠は空けておく規則だった。

「俺の枠をばあちゃんに」

椋太が係員へ頼む。

「本人以外は使用できません」

「じゃあ二人で床に座る」

「入所可能者が待機区域へ戻ることは推奨されません」

体育館の外には、黄色い線で囲まれた待機区画があった。屋根は短く、横殴りの雨が吹き込んでいる。照葉は濡れた椅子へ腰を下ろした。

「お前だけ入れ。風邪ひくよ」

「それ、逆だろ」

椋太は体育館へ入らず、祖母の隣に座った。

水位警報が上がる。待機区画の床を濁った水が薄く流れ始めた。中では、未使用の暖房が赤く光っている。

端末が鳴る。

《信用点数九五〇以上の予約者二十二名が到着不能》

《枠は到着期限まで保持されます》

期限は午前六時。現在、午前一時四十分。

照葉の唇が紫になってきた。椋太は扉を叩き、毛布一枚だけでも渡してくれと叫んだ。

係員は申し訳なさそうに、透明な扉越しに首を振った。

「物資も入所枠に付随しています」

椋太は上着を脱いで祖母へ巻いた。

「昔の避難所はね、早く来た人から詰めて座ったもんだよ」

照葉が笑う。

「信用なんてなくても、隣の人が毛布を半分くれた」

二時過ぎ、彼女は椋太の肩にもたれたまま動かなくなった。

端末が呼吸停止を検出する。

《待機者一名の利用申請を終了》

《混雑緩和への寄与を評価》

照葉の最終点数が五八八から五九三へ上がった。

同時に、椋太へ入所案内が再表示される。九一四点の枠は、まだ暖かいまま残っていた。

彼は祖母を抱き上げた。扉は椋太一人分だけ開き、腕の中の照葉を未承認物として警告した。

体育館の中には、誰も使っていない毛布が百枚、きれいに畳まれていた。