滑り台の下の夏休み
引っ越しの前日、少女は友達にさよならを言えなかった。
転校すると伝えた日から、皆は色紙や手紙を用意し始めた。
その親切が、もう仲間ではなくなる印のように見えて、少女は放課後の公園から逃げた。
古い滑り台の下に、子ども一人が入れる隙間がある。
奥へ潜ると、外の一分が、中では一日になった。
少女はすぐに出ようとした。
だが外から友達の声が聞こえた。
「見つけても、怒らないから」
その声は、一日に一音ほどの速さで伸びている。
少女は十八日、滑り台の下で過ごした。
最初の三日は泣いた。
次の五日は、土の壁へ町の地図を描いた。
学校、駄菓子屋、秘密基地、喧嘩して仲直りした歩道橋。
残りの日で、一人ずつに渡す絵を描いた。
紙がなかったので、鞄のノートを全部破った。
十八日目、地図の端に新しい町を描こうとして、手が止まった。
まだ見たことのない場所は、上手に描けない。
代わりに、二つの町を長い点線でつないだ。
電車の線ではない。手紙が行き来する道だった。
外へ出ると、十八分しかたっていなかった。
友達は全員、公園に残っていた。
少女は一人ずつに絵を渡した。
最後の一枚は足りなくなり、自分用の地図を半分に破って、いちばん仲の悪かった友達と分けた。
「向こうで友達ができたら、私たちのこと忘れる?」
誰かが聞いた。
「忘れる日もあると思う」
正直に答えると、皆が少し困った顔をした。
「でも、また思い出す」
滑り台の下のことを話すと、友達は順番に潜った。
一人ずつでは時間がかかるので、肩を押し合い、六人で無理やり入った。
外の一分を、中の一日として過ごした。
お菓子は一時間でなくなり、話題は半日で尽き、その後はくだらないしりとりをした。
親たちが迎えに来たとき、外ではまだ一分しか過ぎていなかった。
少女たちは一日分疲れた顔で笑い、土まみれのまま叱られた。
引っ越し後、手紙は最初こそ毎週届き、やがて月に一度になった。
半年届かないこともあった。
それでも封筒の隅には、必ず点線が描かれていた。
何年か後、公園の滑り台は撤去された。
少女はもう大人だった。
久しぶりに集まった友達と、何もない地面へ座った。
誰もあの日のしりとりを覚えていなかった。
けれど別れの前に、確かに長い夏休みを一日持っていたことだけは、全員が覚えていた。