滑走路の青い袋

午前四時五十分、空港外周を巡回していた八重樫透真の車に、振動警報が届いた。

東側フェンス、区画E七。監視映像に人影はなく、現場には青いビニールが引っかかっているだけだった。

運用担当は無線で言った。

「風の誤報でしょう。回収して戻ってください」

八重樫は車を降りず、袋の動きを三十秒見た。風は海側から滑走路へ向いている。袋はフェンスの外ではなく、制限区域側にあり、次に裂ければ空港内へ飛ぶ。

航空機の近くへ入り込む異物はFODと呼ばれる。袋は翼より軽くても、止める便は一機では済まない。小さなビニールでも、エンジンに吸われれば運航を止める。警備の仕事は侵入者を探すだけではない。

彼は最短の門から入らなかった。そこは始発便の牽引車が通る時間だったため、ひとつ南のゲートへ回り、エプロンを横切らない経路を運用室に確認した。袋を追って車が航空機の動線へ出れば、拾う物より自分が危険物になる。

フェンスの振動値は小さかったが、八重樫は警報の閾値を下げなかった。風で鳴るからと鈍くすれば、人が金網へ触れた時も同じように見逃す。

現場へ着くと、袋は幅の広い梱包フィルムの一部だった。フェンスだけ回収して終えず、風上をたどる。百メートル先の機内食搬入口で、パレットを包んだ青いフィルムが半分ほどけていた。

担当者は「出発準備が先」と言ったが、八重樫は搬出を止めた。

「今の一枚を拾っても、残りが十枚飛びます」

パレットを屋内へ戻し、結束し直す間、別の車両を隣のレーンへ回した。外周警報はフィルムを回収すると正常に戻ったが、彼は発報原因を「風」ではなく「梱包不良」と記録した。風だけを原因にすれば、次の強風でも同じ荷物が出る。

東の空が橙色になるころ、始発便が誘導路へ動き始めた。青い袋は一枚も見えない。

八重樫が巡回車へ戻ると、無線が別の区画番号を告げた。

今度は鳥の群れだった。滑走路の朝は、空へ上がるものと、上げてはいけないものを休みなく選び続ける。