灰と脂から生まれた白い武器

竜騎士団の浴場は、血より竜脂の汚れに負けていた。

鞍を外した騎士の腕には、黒い油膜が残る。水でこすっても広がるだけで、傷口へ入り込んだ脂のせいで化膿する者が続出した。団長ハウゼンは香油商へ銀貨を積んだが、香りが強くなるだけで汚れは落ちなかった。

「雑用係は湯を運べ」

そう命じられた颯太は、前世で石鹸工房に勤めていた。

彼が使った知識は一つ。脂と灰汁を反応させ、石鹸に変えることだった。

捨てられていた竜脂を鍋で溶かし、濾した灰汁と混ぜる。弱火で練り、型へ流して固める。魔石も高級香草も使わない。薄灰色の、見栄えのしない四角い塊ができただけだ。

翌朝、型から外した石鹸は高級品のような花の匂いもしなかった。だが脂に触れた瞬間だけ、白い泡が汚れを包んで水へ運ぶ。颯太は一個に使った材料費を札へ書いた。銀貨一枚どころか、銅貨二枚。廃棄物だった竜脂が原料だからだ。浴場係は値札を三度見直し、ようやく桁が間違いでないと悟った。

副団長が笑った。

「汚れから作った物で、汚れを落とすのか」

颯太は自分の腕へ竜脂を塗り、半分だけ石鹸で洗った。水だけの側は黒く光ったまま。泡を立てた側は、三十秒で肌の色が戻った。白布で拭くと、差はさらに明らかだった。片方は黒い筋、片方は何もつかない。

浴場で騎士五十人が試した。洗浄にかかった時間は一人十五分から四分。湯の使用量は半分。薬草係が翌日の傷を調べると、赤く腫れた者は先週の十七人から二人へ減っていた。

ハウゼンは最後まで疑い、自分の白銀の籠手を洗わせた。泡を流すと、彫刻の谷に詰まっていた古い脂まで剥がれ、騎士団章が鏡のように光った。

その日の夕方、王都の浴場組合が木箱百箱分を注文した。颯太が値段を答える前に、香油商が倍額を提示する。団長は両方の注文書を破り、新しい契約書を書いた。

「竜騎士団直営の衛生工房を設ける。工房長は颯太。生産した半分は騎士へ、半分は町へ売れ」

雑用係の札が外され、代わりに工房の金鍵が掌へ落ちた。浴場では、五十人分の白い泡が一斉に立ち上がっていた。