熟したものだけが落ちてくる
鑑定士ソモンは、王都で最後にこう告げられた。
「赤いか青いかも即答できぬ者に、価値を測る資格はない」
彼の鑑定は遅かった。色だけでなく、香り、毒、食べ頃、育った土まで見ようとする。その慎重さを嫌われ、熟れた実だけを受け取る魔法籠《実選び》とともに辺境へ追い出された。
着いた日の畑には、支柱の倒れたトマトが一列だけ生き残っていた。赤、橙、緑が蔓の中で入り混じる。腹は減っていたが、全部を採れば明日の実まで失う。
ソモンは籠を地面へ置いた。
「今夜、食べていいものだけ頼む」
蔓へ手を伸ばすと、真っ赤な一個が自ら離れ、籠へぽとりと落ちた。橙の実は揺れただけ。緑の実は枝へしがみつく。
二個目、三個目。
四個目の赤い実を籠へ入れようとすると、縁が青く光って弾き返した。よく見れば、皮に針ほどの黒点がある。割ると中に腐りが回っていた。見た目だけなら王都の宴へ出されていただろう。
籠は早くない。だが間違えない。
王都の市場では、形のよい実から値がついた。甘さは切るまで見えず、毒は食べるまで分からない。それでも「即答できる者」が優秀とされた。
ソモンは籠の縁を撫でた。待つべき実には待つ時間を与える。それも鑑定のうちだった。橙の一個へ明日また来る印として、蔓に細い麻紐を結んだ。
一列の端まで進み、受け取ったのは七個だけだった。残された実は夕露をまとい、明日以降の赤を静かに待っている。
ソモンは七個を刻み、鉄鍋へ入れた。油の上で果汁がじゅうっと弾け、酸味のある湯気が立つ。塩と乾燥豆を足すと、粗末な小屋が急に食堂の匂いになった。
食べる直前、鑑定士組合の使いが来た。
「晩餐会で毒果が出ました。組合長が、あなたの復帰を認めると」
認める。その言葉だけで胸が冷えた。
ソモンは封書を受け取り、籠の横へ置いた。開けないまま、木匙で鍋を一度混ぜる。
「そちらは、見た目で選んだのでしょう」
赤いスープを椀へ注ぐ。籠の中の七個は、もう全部鍋の中だ。
彼は急がず、ひと口目を確かめた。酸味の奥に甘さがある。
今夜の価値は、誰かに認め直されなくても、舌の上ではっきり分かった。