爆破鍵を谷へ捨てて

黒晶鉱山の最深部には、爆薬より危険な作業員がいた。

戦闘工兵ボルド。岩盤を拳で砕き、敵塞を体内爆薬ごと吹き飛ばす人造人間だ。胸の起爆印は、監督官が持つ黒い鍵と結ばれている。

測量師ヒサギが新坑道の亀裂を報告しても、監督官は採掘を止めなかった。

「明日の検査まで持たせろ。崩れたらボルドを支柱にする」

人型の彼を坑道へ立たせ、最後は起爆して落盤を塞ぐ。それが契約書に記された《緊急資材化》だった。

その夜、地鳴りがした。百人の鉱夫が地下に残っている。

監督官は黒鍵をヒサギへ押しつけた。

「お前が新しい命令者だ。ボルドを第七码へ走らせ、爆破しろ」

鍵の空欄へ親指を押せば所有権が移る。ボルドは既に片膝をつき、命令を待っていた。

「爆破すれば本人は?」

「兵器の損耗を数える暇があるか!」

ヒサギは坑道図を見た。第七码を爆破すれば落盤は止まる。だが別の古い排気路を開けば、時間はかかっても全員助かる可能性がある。

「ボルド。あなたはどうしたい?」

「所有者未登録につき、回答権限がありません」

その言葉に、ヒサギは黒鍵を握り直した。

そして所有欄へ指を置かず、測量槌で鍵の魔石を叩き割った。

胸の起爆印が激しく光る。監督官が悲鳴を上げた。

「契約を切れば暴発する!」

「違う。暴発させる信号を、あなたが鍵で握っていただけ」

魔石が砕け切ると、ボルドの胸から数字が消えた。体内の爆薬はただの道具になり、自分で使う量を選べる。

「排気路は東へ十二歩。命令じゃない、測量結果よ」

ヒサギは鉱夫たちを率いて走った。

背後で拳が岩を打つ音が始まる。ボルドは第七码へ向かわず、東の壁を掘っていた。一撃ごとに道が開き、夜明け前、百人全員が谷へ脱出した。

監督官が捕らえられる頃、ボルドの姿はなかった。

三日後、閉山した坑口でヒサギが測量杭を回収していると、谷道から足音がした。

ボルドは空になった爆薬槽を見せ、一本の安全灯を彼女へ差し出す。

「体内の火薬は全部捨てました。残したのは灯りだけです」

「どこへ行くの?」

「あなたが次に、安全な道を測る場所へ。今度は自分の足で同行します」

彼は黒鍵の代わりに安全灯を掲げ、ヒサギより半歩前を照らした。