片側だけの枕

涼香が二十五歳になった夜、母は居間の椅子で眠っていた。

病院から一泊だけ帰宅できたのは、誕生日だからというより、次の治療まで一日空いたからだった。母は朝から部屋を掃除し、食べられそうなものを何種類も作り、涼香が横になるたび毛布をかけた。夕食後、洗い物を終える前に椅子へ座り、そのまま首を傾けて眠った。

寝室のベッドは、涼香が入院してから片側しか使われていない。父が亡くなったあとも母はダブルベッドを替えず、右側にだけ浅い窪みを作って眠っていた。

入院中、母は毎晩ここへ戻っているはずなのに、朝にはまた病室の椅子に座っていた。髪を整える時間もなく、同じ灰色のカーディガンを着ている日が続いた。涼香は母の寝不足について注意するのをやめた。代わりに、眠る場所だけは今夜のうちに整えようと思った。

涼香は洗面所の棚から新しい枕カバーを出した。薄い灰色で、去年二人で選んだものだ。袋から出したまま、一度も使っていない。

母を起こさずに寝床を整える。それが今日やる最後の用事だった。

古いカバーを外す。髪の油と柔軟剤が混じった、家の匂いがした。枕は思ったより軽く、角がへこんでいる。涼香はベッドの端に腰を下ろし、息が整うのを待った。

新しいカバーの口を広げ、枕を半分入れる。残りが引っかかり、布だけが先へ逃げる。病室ならナースコールを押すような小さな困りごとでも、家では自分でやりたかった。

枕を立て、上から布を少しずつかぶせる。角を片方ずつ押し込み、余った部分を内側へ折る。灰色の布が、古い枕の形になじんでいく。

枕元には読みかけの文庫本と、涼香の薬の時間を書いたメモがあった。メモは裏返し、本は栞を落とさないよう脇へ寄せた。母が横になったとき、手を伸ばす場所に何も当たらないようにした。

居間から母の咳払いが聞こえた。起きたかと思ったが、また静かになった。

涼香はベッドの右側へ枕を置いた。左側には何も置かない。自分が今夜使う分は、病院から持ち帰った小さなクッションで足りる。

カバーの中央に一本しわが残った。手のひらで端から端までなぞると、布は平らになった。

涼香は枕の角をベッドの頭側へ揃えた。