犠牲席の札

玉城谷直哉は、椅子の背から〈SACRIFICE〉の札を剥がした。

百々瀬環生が身を引く。卓を挟んで二脚、どちらかの背へ札がついたままベルを迎えれば、その椅子に座る者が犠牲になる。

規則は一つ。二脚の座面には針も刃もなく、札の位置を追うカメラだけが赤く瞬いていた。処刑対象を決めるのは椅子ではなく、札と生体反応の組み合わせだ。

〈終了時、犠牲席に着席している一人を処刑し、残る参加者を解放する〉

環生は直哉を椅子へ縛りつけようとしていた。直哉は抵抗する代わりに、札の裏が磁石だと確かめた。椅子そのものに処刑装置はない。天井カメラが札と着席者の位置を読むだけだ。

直哉は札を換気口へ差し込み、奥へ滑らせた。

通路の先から、金属へ吸いつく音がする。換気口は一方鏡の向こうにある制御席の真後ろまで続いていた。札は、そこでゲームを見ている男の椅子へ貼りついた。

『札を室外へ移動させる行為は無効です』

「室外なら、どうして判定灯が点いた?」

壁の表示に三つ目の座標が現れる。椅子A、椅子B、そして制御席C。公正な記録を残すため、主催者の椅子にも着席センサーが組み込まれていた。

環生が笑い出す。

「見物席も椅子には違いないな」

『犠牲席とは参加者用の椅子を指す』

「規則にはそう書いていない。札がついた席が犠牲席だ」

残り五秒。向こうで男が立とうとする。しかし直哉は換気口から伸びる非常固定レバーを引いていた。収録中の転倒を防ぐため、制御椅子の脚が床へロックされる。

ベル。

〈犠牲席C。着席者一名〉

〈処刑対象を確定〉

二人の首輪が外れ、一方鏡の向こうで拘束環が赤く光った。

環生が直哉を見る。

「最初から主催者の椅子を狙ったのか」

「札が磁石だとわかった時から。動かせない人間を争わせるのに、動かせる札を使ったのが間違いだ」

出口が開く。

直哉は空になった二脚の間を通った。犠牲席とは、血を吸った特別な椅子ではない。主催者がそう名づけた札の行き先にすぎなかった。