犯罪者になった刑事

纐纈静流が追っていた爆破犯は、自分の顔をしていた。

都市警察AIが並行世界から送られた犯行声明を復元すると、別世界の静流が現れた。向こうでは、予測警備システムの誤判定で娘が拘束され、取調べ中に死亡していた。刑事だった静流は内部告発に失敗し、システム施設を爆破するテロリストになった。

こちらの娘は生きている。予測警備のおかげで、通学路の襲撃から救われたこともあった。

「協力しろ」と犯人の静流は言った。「次の更新で、こちらと同じ誤判定が始まる」

「爆破で何人死んだ」

「十九人」

「娘のためなら十九人を殺せるのか」

「娘が生きているおまえに、数え方を教わりたくない」

静流は犯行手順を聞き出すふりをして、向こうのデータを解析した。誤判定の原因は事実だった。こちらの警察AIにも同じ欠陥が眠っていた。

上司はデータを封印し、並行犯を「悲嘆による人格逸脱」と発表するよう命じた。従えば娘の安全も、刑事の地位も守られる。

静流は取調室へ戻った。

「爆弾の場所を言え」

「おまえの世界には、まだ置いていない」

「違う。私の中のだ」

向こうの静流が初めて目を伏せた。

こちらの静流は、欠陥資料と上司の命令記録を報道局へ送った。翌朝、停職処分となり、自宅前には抗議と支持の群衆が集まった。娘は震えながら、「刑事をやめるの?」と聞いた。

「たぶん」

「犯罪者になる?」

静流は答えに詰まった。法律を守る側と壊す側の境界が、別世界ほど遠くないことを知ってしまった。

通信が切れる直前、向こうの静流が言った。

「十九人目で気づいた。正しさは、怒りに銃を持たせる言葉になる」

静流は娘の手を握り、群衆の前へ出た。武器は持たず、制服も着なかった。犯罪者になった自分を否定せず、それでも同じ一発を撃たないために、欠陥を一つずつ証言した。

公聴会では、静流の証言を売名と罵る者もいた。娘は傍聴席で泣きながら、誤判定で拘束された家族の名を記録した。帰り道、「正しい方に戻れた?」と聞かれ、静流は「戻る道はない。間違えたら止まれる側にいたい」と答えた。