玄関カメラは見ていた
月ヶ瀬乃絵が帰宅すると、玄関に自分の靴がなかった。
代わりに義母・礼子の靴箱が置かれ、リビングの棚には義父・英治のゴルフ用品が並んでいる。夫の律希は平然と言った。
「父さん母さんが同居してくれる。お前の荷物は物置に入れたよ」
「この家は私が結婚前に買ったのよ」
「結婚したら家族の家だろ。母さんを他人扱いするな」
乃絵が抗議すると、礼子は祖母の形見の指輪まで外してみせた。
「家賃代わりにこれくらいいただくわ。嫁が持つには派手だもの」
翌朝、乃絵は家を出た。
離婚協議の日、三人は乃絵の弁護士事務所へ来た。礼子は「嫁が突然失踪し、宝石と現金を持ち逃げした」と書いた要求書を机へ置いた。
弁護士は無言でモニターを点けた。
玄関カメラには、礼子と英治が合鍵で入る姿、乃絵の衣類を黒い袋へ詰める姿、律希が指輪の鑑定書を探す姿が映っていた。クラウド映像には日時と端末情報が残り、削除操作の履歴まで保存されている。
次に、質店の防犯映像が流れた。礼子が形見の指輪を売り、律希が代金を受け取っていた。
「返したわよ、あとで買い戻したもの」
礼子が叫ぶ。
弁護士は赤い石の指輪を机に置いた。
「買い戻したのは、警察から連絡を受けた質店です。窃盗品として保全されています」
乃絵は三人へ請求書を向けた。住居侵入、財物の持ち出し、虚偽の中傷、婚姻生活からの排除。慰謝料九百万円、財産損害と転居費、休業損害を合わせて二千四百万円。
律希は椅子から立ち上がった。
「夫婦なのに窃盗になるわけないだろ!」
「乃絵さん固有の財産です。しかも、ご両親は同居人ですらありません」
英治が低い声で言う。
「裁判でも何でもしろ。うちの財産は守る」
弁護士が一通の決定書を開いた。三人が指輪の代金で繰り上げ返済した英治宅、その預金口座、律希の給与債権に対する仮差押命令だった。
同時に、廊下で刑事が受付へ身分証を見せた。
「月ヶ瀬乃絵さんの告訴状について、関係者三名から事情を伺います」
礼子の指から、乃絵の家の合鍵が落ちた。